高見佳奈の話(2)
黒澤も着替えるために、コーヒーを飲み干し席を立った。しばらくして黒澤が戻って来ると、高見はパンを口に放り入れ、食事を終えつつあった。彼が端末を確認すると、また一件、アタッカーへの指名依頼が届いている。食器を下げるためカウンターを通過した高見もそれを覗き込んだ。口にパンかすが残っているのを言おうか言わないか黒澤は迷ったが、高見はなにも気にせずそれを手で払う。
「またアタッカーへの指名ですか、これ受けるのかな」新人の話をしているな、と黒澤は思った。
「依頼が今日の夜だから難しいんじゃないか」
「いまも仕事でてますもんね、よく一人で行きますよね、どうです? なんでもこなしてくるのが逆に不気味じゃないですか? あんだけ動けてこんな弱小会社に来ます? 単独任務に出れることが条件っていうのも変わってるし」
高見はめずらしく眉根を潜めた表情になって話をしている。よっぽどあの新人が不気味らしい。見た目の問題ではないことは黒澤にもわかっていた。雰囲気の問題だ。
ガレージに戻ったときはきちんと話もするし、挨拶も笑顔で交わせる位には常識人だった。たまに、メインモニタを見つめる目が不安を感じさせる日もあるにはあった気がするが。モニタを確認する黒目が全く動かないように見えたのは気のせいだったかと思い、黒澤はかぶりを振った。
「なかなか言うね…。俺も思ったけど。よほど人間的に問題でもあるかと思ったけどそんなこともないし。大手が嫌いなだけなんじゃないか? アタッカーって、変わった人多い気がするよ」
「まー、入れ替わりも激しいし、いろんな人がいますからね。お待たせしました、行きましょう」
早足で食器を片付けて、うがいをし、高見は荷物を背負った。これから荷物を回収してくるというのに既にバックパックの中身はパンパンに膨れ上がっていて、何が入っているのか気にはなったが黒澤は触れるのをやめた。彼女はいつも、荷物が多い。
黒澤はモニタを消して、ガレージの鍵を手に取った。
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