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アラート内容を確認せよ

 先ほどまでは、降りしきる雨が車にぶちあたる音がやかましいくらい車内に響いていたが、それも次第におさまり大人しくなった。ワイパーの速度を低速に変えて窓の外を伺う。まだまだ、どんよりとした重い空が先々に広がり、気分も少々重くなる。対向車がしぶきをあげて通過していく。

 先程から代わり映えもない、色気もない景色が続き、頭が飽きてきた湊である。なんとなくあくびを噛み殺した。コーヒーが飲みたい…ついでにナッツもつまんだりして、などと思いながらハンドルを切る。飛び石が跳ねる軽い音が聞こえた。


「拓から連絡は?」

 ふと、口を開く。そろそろ手がかりくらい飛ばしてくれてもいい頃あいなのではないかと思ったからだ。


「ない、彼のことだから身を潜めてるだろう。外の様子を見るにしても、リモートエクスプローラがきちんと起動しているか定かでない」

「はは…いいスタートだ」

 冗談交じりに皮肉をぼやきナビ表記に目をやる。メトロシティまであと5キロ。もう数分で到着するだろう。前方には背の高いビル群が光を帯びて連なっているのが見える。雲のせいか建物のてっぺんまでは見えない。晴れていればメトロシティの景色として、街のポスターなどに使われる象徴的な画だ。安っぽいネオンの光と、怪しく佇むLEDライトの灯りがメトロシティの経済の移り変わりを表しているかのように不自然に混同していた。

 訪れるのは初めてではないが、ちぐはぐした街並みを改めて眺めると、自動的に心許ない気持ちが湧いてくるのはなぜだろうと湊は思った。


 そのビル群を取り囲むように、古びた街並みや廃墟が残されていて、さながら砦のように見えなくはない。道を走っていても、整備を放棄された公園、建設途中で工事が頓挫したであろう途切れた道路や中途半端なビルをいくつか見てきた。目的地に入れば、こういった光景がさらに増えるだろうと湊は思った。退廃的で先進的な場所である。時刻は15時を過ぎた頃。天候のせいか少々薄暗い。日没を過ぎればすぐに暗闇に飲まれてしまいそうだ。はやく一休みしたいところである。


「エリア内のモーテルを押さえておいた。繁華街の区間だから安全だろう。今日はそこで休んで様子をみる」

 琴平がこちらに視線を向けたので、返事の代わりに頷く。久々に運転をしたから少々疲れたのも本音。さっさと笠原と合流したいのも本音。休む、という言葉に無意識に反応したのか、指でリズムを取っていた。

 すると、琴平が端末操作し、フロントガラスにモニターを展開させた。運転席からは見えないようになっているが、琴平の怪訝な顔だけは確認できる。そして淡々と口を開いた。


「休むのは一仕事終えた後になりそうだ。どうやらきみが平和にメトロシティまでたどり着くのは難しいらしい」

「え、なんで」

 とハンドルを両手で握りなおして湊が訊くが、すぐに答えが返ってきた。琴平の口からではなく、車内スピーカーからである。運転に差しさわりない音量でアラートが鳴っている。当然だがいい予感はしない。聞きたくないが残念なことに耳を塞ぐことができない。やっかいなことに近くのエリアで救難信号が出されたため、たまたま近くにいた自分たちに現場確認報告義務が発生してしまった。そんな内容だ。


  

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