高見佳奈の話(1)

 すると社長室の札がついた名ばかりのガラクタ部屋から高見がでてきた。そんな表記だが実際は彼女の作業場になっている。グレーのツナギ姿で、束ねていた髪をほどき、黒澤を見つけると笑顔になった。肩まで伸びた髪があちこち跳ねて揺れている。挨拶を交わす。黒澤はざらついたコンクリートの床を移動し、カウンター席へ腰かけた。コーヒーを二つ持ってきた高見が席に着き、端末を操作した。


 手のひらに乗せた小鳥を空に促すようにな動作でデータをテーブルへ展開させる。エアモニタに表記された内容を眺めながら黒澤はお礼を言ってコーヒーを受け取った。香りが抜けた。

「今日何時に来たの?いや、昨日も泊まったな?」

「試作品作ってたら夢中になっちゃって。新人君は単独任務に出ちゃうでしょ?そしたら二人で対応できる仕事を選ぶことになるけですよ」

「そうだね」黒澤はコーヒーを啜って頷く。

「スモークと、電磁以外にもグレネードの種類を増やしたくて」

「なるほど」

「試しに作ってるのが衝撃と冷却と粘着です。粘着は特におススメ…なんですけど」

「けど?」


 高見はウエストポーチに手を突っ込む。

「このグレネードに詰めると、破裂した時に上手くいかないんですよ。素材から見直さなくちゃ。さっき作業台と指をくっつけそうになっちゃって大変だったんですよね…って試してるうちに、あーら朝です」

「寝たの?」

「寝ましたよ、大丈夫ですよ」彼女は笑顔で答えた。これが若さか、と黒澤は内心思う。

「ならいいけど、これ完成したらだいぶ助かるな」

言いながら黒澤は、今日仕事のマップや改修素材の確認をした。コーヒーを啜る。


「あ、車に荷物積んどきました」

「早…ありがとう。今更だけどこれ、管轄外区間の案件なんだな」

「そうなんですよね。だからウチが引き受けられたってことは、よっぽどオコボレ仕事なんでしょうね。でも、それにしても内容のくせに、まぁまぁな報酬だから申請してみたら、運良くゲットです」

「あぁ、難しくは無さそうだ。あのあたりはリモエクで下見をしたが廃墟が多くて移動し難いかもな。建物が崩れてマップと変わっているところもあるはずだから、そこは注意しよう。廃材回収の方はまかせていいのか?」

「はい。回収の方は私がやります。取扱注意のやつも指定されてますんで」

「わかった。情報によると違法オートマタの出現率も低いみたいだからそこまで問題なさそうだ」

「ほっ。なにも出てきませんように」

「じゃあ、飲んだら行こう」

「卵たべていいですか? いま焼いてて」高見がガレージのキッチンを指差す。彼女はほとんど、ここに住み着いているようなもので、最低限の荷物を持ち込んでいる。当然、食事もガレージで済ますことのほうが多い。


「……うん、たんぱく質とってから行こうか。大事だから」

「ありがとうございまーす」

 そう言って、彼女はキッチンへ駆けて行った。


  

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