黒澤当麻の話(3)
ガレージに作った違法オートマタ対応会社だから社名もガレージという、力の抜けた会社で、いつもながら散らかっている。荷物をソファに放り投げ上着を脱ぎ、メインモニタの前へ進み手をかざしてプログラムを操作する。モニタがなにか喋ったが、とりあえず無視して彼はいつものように事務局がとりまとめた依頼一覧表示に目を通した。
局に登録している会社が閲覧できるデータで、自分がフリーで動いていた時とは得られる情報量がケタ違いだったことに驚いたものだ。依頼は会社の所在区域やレベルで公開内容が変化し、特定の会社もしくは個人宛の指名依頼と、どの会社の誰でも受注可能な一般依頼がある。事務局を仲介して受注申請をし、条件が合えば受注完了となる。
稀にエリアで機械抗争が勃発した際や、救難信号を拾った場合は、事務局から直近の会社、もしくはそのエリア内にいる登録者へ緊急出動要請アラートが届くことがある。これを受けた場合は現場確認報告任務が発生するのだが、必ず行かなければいけないわけでなく、人手不足等の理由があれば拒否も可能だ。これには事務局から対応した会社に対して別途手当が支払われるので、救難信号を飛ばす会社は少なくない(事務局の登録料から賄われているのだが)。対応した会社が報告書を出せば終わりである。自分も信号を要請したこともあるし、駆けつけたこともある。事務局に登録しているしがらみもあるが、フリーで行うより保証が効くため、多くの会社が登録している。
これを利用し、出社した際に各自で確認して、原則自由に選ぶことができる反面、個人のスキルが高く求められる職種である。といっても、エリア内に同業者が点在しているため、依頼の奪い合いになりかねない問題があり、改善に手間取っている事務局に対したびたび彼らは頭を悩ませていた。
それにエリアのワークバランスを取るのが簡単ではなく、依頼元と連絡をとっても大手と比較されて受注をとれないことも少なくない。だからこそ、彼らは試用期間で採用している新人に期待していた。蓋を開ければなぜ大手に所属しないのかと思えるほどのアタッカーだったからだ。なんでも、紹介員に「単独任務に就けること」を条件として出してきたらしい。めずらしいことであったが、ガレージ側に不服もなく合意となった。
本日も彼に指名依頼が入ったため既に外出している。大手より割安でアタッカーを確保できるのがウリであり、新人も支払われる報酬金額に一言も文句は無かった。しかし大手には、一連の事務処理を行うアシスタントがついていることが普通だった。ここにはそれがないため、それも各自行なっている。月の受注件数ノルマはないが、目標金額は月ごとに設定している。月末は自分の業務と事務処理に追われることが多いのが難儀だと高見と相談するのだが、人員を増やすのも難しいのだ。
そんなことを考えながら黒澤は、モニタを眺めている。新着依頼は無かった。彼は傾向的にサポート依頼を選ぶことが多かった。目標への潜入補助や個人アタッカーのバックアップ、ごくたまに講師として呼ばれることもあり、業務は様々だ。
黒澤は、かざした手の指を動かし画面を操作して、昨日までに受注申請をだしていた依頼の確認をした。事務局からは、受注完了の通知が届いており、彼は内容をスケジュールに追加する。その1件はこのあと向かうことになっているのだが、同僚の姿が見えない。カウンターに彼女の端末が展開されていたから、いるにはいるようだが。
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