黒澤当麻の話(2)


 彼は足を進めながら仕事のことを考える。業務時間外にあれこれ考えてしまうのが悪い癖だ。その新人は会社が待ちに待ったアタッカーだった。頭上をモノレールが走り、その影がうっすら自分に落ちる。


 違法オートマタへの対応スタイルは各社様々だが、どこでも共通しているのが、直接仕掛けるアタッカーと遠距離攻撃をするスナイパー、もしくは援護に秀でたスリンガーやアーチャーがペアになり直接現地で対応することである。対応会社の最大手が考案した手法といわれ、いまではほとんどの会社が似た仕組みで対応をしている。


 しかしアタッカーというのはこのご時世、進んで目指そうとするものは少ない。危険に率先して飛び込んでいくような仕事だ。違法オートマタと一番距離が近いところで活動する。よほど頭のおかしいやつか、その才能がある奴しか目指そうとしない。なろうとしてなれるようなものでもない。失敗して犯罪に手を貸すようになったやつが、事務局からペナルティを課せられることもある。

 そんなだからどこの会社も人手不足で紹介の順番待ちをしているような状態だ。しかも多くは大手に配属されていくから、このような小さな会社には紹介すらなかなかまわってこない。だからワガママなど言っていられないのだ。


 最初はその新人に対して特に期待をしていなかった。珍しいことではない。今までにこのポジションは何度も入れ替わった。どれも似たようなデータで、結果を残せないもの、怪我で引退するもの様々だ。少なくとも自分のスリンガーよりは高いレベルが求められるのだろう。閑散とした街並みの中にガレージが見えてきた。


 だが新人は、データに反して高い結果を残したのだ。決定力に欠けていた部分もあったが。その代わり勘が良いのだ。先の動きを読んでいるかのように一手を踏み込むことができる。アタッカーとスリンガーのシンクロを目指すよりは単独で動くほうが成果がみられるタイプである。できれば組んでやっていきたい。まだ現場のチームワークが揃わないことは否めないが、早くこのメンバーで慣れればいいなと思いながら、黒澤はガレージのドアを開けた。

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