ガレージでの話(2)

「あんたたちもなんで、管轄外区間の依頼を受けてたんだ?」

 湊は訊いた。高見が嘆息交じりに口を開く。

「それがですねー、うちのアタッカーがそんな理由ででずっぱりだから、メカの私とスリンガーの黒澤さんで出られる依頼を探してたんですよ。そしたら丁度よく発見して。無事に廃材も回収できたし。使えそうな素材もゲットできたし。あ、私あした事務局にいってきますね」

「うん、まかせたよ。そういえば、あんたなんで今日、逃走したオートマタの後を追おうとしたんだ?」


 黒澤が眉根を潜めて訊いてくる。確かに深追いは危険とわかっているが。

「ついな。探している機体がいてね」

 正直に言ってしまって彼は、はっとした。はぐらかせばいいものを、どうしてこういう時に上手くできない。顔に出すのだけはこらえて、湊は作り笑いをした。案の定、高見が目を丸くさせて訊いてくる。

「探してる? オートマタを?」

「…あぁ、まあね。狙ってる部品があるんだ」

 湊はそうぼやきつつ、壁のアナログ時計に視線をやる。高見は「へぇー、部品かぁー、それなら私も欲しいのあったら追っちゃうかも」などと一人で話をしていた。湊は黒澤の視線には気が付かないふりをし、「相方に通信をしてくるよ」と話題をごまかして席を立った。「奥を使うといい」と黒澤に促され、ガレージの奥へ向かった。途中、手書きで社長室と書かれたプレートがついたプレハブのような一室があったが。実際のところ中に人がいるのかどうか、定かではなかった。彼らと話をして街の状態はわかってきたが、自分が探しているものについては有益な話は得られなさそうだ。


 気を取り直して、少々薄暗いスペースで琴平へ通信をとろうとしたところ、奇遇にも彼からの通信が入った。義手の端末に触れてチャットを開いたつもりが、音声通話だった。

「いま連絡しようとしたところだ」

と、湊が言い終わる前に、琴平が猛烈な勢いで言葉を被せてきた。早すぎて聞き取れないほどだったので思わず顔をしかめた。ガレージの奥から、扉の開く軋んだ音が聞こえてきた。「なに?」と聞き返す。

「今いるところから早く出なさい」

「え? なんて言った?」少し緊張感のある相手の声に、湊は思わず辺りを見渡した。

「そこから早く出なさい。一人でウェティブに会ってはいけない。すぐ、出なさい。そちらまで迎えに行く。遠くはない」

「ウェティブに? まだこっちはなんの情報も」こちらの困惑を完全に無視する形で琴平は続ける。

「笠原拓と連絡がついた。伊野田が所属した会社はガレージ。いま、きみがいるところだ。すぐに、そこを離れなさい」

「は…」


 あまりに早い情報量に一瞬頭が固まったが、湊は通信を切らずに、もといたリビングスペースへ体を向けた。途中で聞こえたのは笠原拓のものだったか。今は返事をする余裕はなかった。息を飲む。足音を消して一歩一歩部屋に近づくと、話し声が増えたことに気づいた。


 湊は自分の鼓動が足早に打ち出すのを忘れて無意識に、キャビネットの上にあった金属の棒を手に掴んだ。中が空洞で軽い。もとは警棒だったのだろうか。高見が持ち帰ってきたのだろう。その硬さを試すように、手のひらに軽く打ちながらリビングの影へ。話し声。任務がどうだった、とか途中で見つけた店の話、高見の笑い声。

覗き込む。

そこにいたのは黒澤と高見ともう一人。

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