ガレージでの話(1)

 メトロシティの市街地からほんの少し逸れた場所に車が移動すると、それまで賑やかに飾り立てられた電飾や音楽が嘘のように落ち着いた。道幅は相変わらず広く、さらに進めば住宅街なのであろう。中心地よりは背が低いが、住居棟に見える建築物が並んでいるのが見えた。車はその区画に向かう前に速度を緩め、湊はまさかと思ったが、古めかしい外観のガレージの前で停車した。車を降りて眺めると、まるで違法オートマタの工場だな、と彼は思った。


 黒澤が錆びついて軋んだ扉を開けると、外観通りの内装が広がっていた。雑多な作業台、斜めに設置されたラック。そこに積まれた膨大なファイル。必要のなさそうなデスクにまで付けられたデスクライトは高見が拾って来たものを直したらしい。ミントグリーンの鉄柱は錆びつき、横にはドラム缶があった。その半分以上が、使用頻度の極端に少なそうなものばかりだった。


 そんなガレージを眺めつつ、湊は少々迷ったが、装備品を棚に預けて古ぼけたソファにゆっくり腰掛けた。見上げるとその全てを青みがかった照明が照らしている。湊は黒澤に促されシャツを脱ぐ。見ると、体に数カ所痣ができていたが、問題はなかった。「なんでか、普通の人よりかは、ちょっとだけ頑丈なんだ」とごまかしつつ。


 それから3人で缶を開け、なんとなく話をしながら湊は情報を探った。話をすることが不慣れなため、ぎこちなさの自覚はあったが。聞いたところによると、このガレージには3人のメンバーがいるらしい。いちばんの古株は高見で、そのあとに黒澤がやってきてからは、アタッカーだけがころころ入れ替わり今に至るようだ。そんな話をしているうちに話題が先の一掃作戦の話になった。


「このあいだの一掃作戦には、参加してたのか?」

 黒澤が湊に訊く。彼を見ると、飲もうと言った黒澤自体は全くアルコールが飲めないらしく、ジンジャーエールを口にしていた。高見のほうは既に2缶目を持ってきた挙句、ツマミの袋を開封している。ナッツを口に放り込み、足を伸ばして自宅のようにリラックスしていた。それを眺めながら湊は缶に口をつけ遠慮がちに返事をした。先ほどあれだけ動いておいて、知らない、とも参加していない、とも答えるのはおかしいだろう。と思いつつ。

「あぁ、してたよ。でも残念ながらすぐ離脱した」

「なんでだ」目を丸くして。そりゃそうだろうよ、と湊は思う。

「違法オートマタ側にも人間がいるだろ、そいつらにこっぴどくやられてね。聞いた話じゃ、無様な退場の仕方だったらしい、黒澤さんは?」

「俺は残念ながら不参加だったんだ。うちの新人が参加してたんだが、こっちも結果はあんまりだったみたいでね。あまり話したがろうとしないんだ。大型の機体を見たとかいう噂を聞いたらしいけど、まあ噂だから」

「でもま」高見が口を開く。

「結果的に、事務局側が勝ったってことでいいんですよね。あれから大量の製造工場が発見されて、いまはその依頼がたくさんでてますもんね」

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