メトロシティに向かえ(3)
「ところであなたのチームメイトか? 女の人が向こうにいる。シールドで隠れさせているから、迎えに行ったほうがいい」
湊が思い出したかのようにそう告げると、黒澤は端末から顔を上げた。
「ああ、それも助かったよ。こっちに向かってるって、連絡が。あ、見えた」
黒澤が目を細めて遠くにピントを絞った。夜目でも効くのかと訝し気に思いながら湊も振り返ると、背丈を超えた荷物を背負って走ってくる人影が見えたような気がした。こちらが静かになったからだろう。器用に瓦礫を飛び越えて結構な速さでこちらに駆け寄ってくるのは、先ほどの女性だった。黒澤が大きく手を振って合図し、歩み寄る。
「あぁ、助かった。助かった、ほんとありがとうございます」彼女は高見です、と名乗って、筒状に戻ったシールドを湊に渡した。
「いや、仕事だし、気にしないで」
湊は彼女を見上げる。正確には背負ってる荷物をだが。こんな荷物をどうしたのかと聞くと、回収依頼分と、使える素材を拾っているうちにこの荷物量になったらしい。すると、高見の表情が突然明るくなった。とっておきの捜し物を掘り当てたような顔だ。
「さっきはびっくりしたけど、義手であんなに動いてたの?」
「え、あぁ、まあ。オートマタ相手だと、動けるんだ。不思議なことに」
「不思議なことに?」
面白がるように彼女は繰り返す。実際面白がっているようだが。義手に触っていいか訊かれて湊は一瞬迷ったが了承した。すると高見は喜び、触りながらも様々な角度で眺めた。目がキラキラしてるな、と湊は冷静に思った。これだけ楽しめるものが自分にあったかな、と斜め上を見上げてみるも思いつかず自分の趣味はのめり込むジャンルだからキラキラは必要ないんだ、など考えたりもしていると、黒澤がわざと咳ばらいをした。
「高見さん、いきなり悪いから…」
「あ、ごめんなさいね、つい。あ、そうだ謝らなくちゃ。わたしあなたに向けてロープガン飛ばしたでしょう」
彼女は表情を一転させ眉根を潜めた。
「あぁ、…ちょっとびっくりしたけど、機械の意表をつくには良かったよ」
すると、ほっとした顔を見せた高見は、なぜか勝ち誇ったような顔で黒澤に視線を向けた。よかったね。と彼がぼやくと、高見は満足そうにしてから荷物を背負い直した。
湊はふと、我に返り、「それじゃあ気を付けて」と踵を返そうとしたところ、黒澤に声をかけられた。
「急いでるのか? 良かったら礼でも」
「ありがたいが、実はすぐにでもメトロシティに行かなきゃならんくてな」
嘆息交じりに返事をすると、黒澤と高見が顔を見合わる。
「おい、歩きでじゃないよな? 俺たちの会社、メトロシティだから乗せてってやるよ。ついでに診てやる」
「え?」まさかの返答に思わず目を丸くして。そんなことは御構い無しに、高見が続ける。
「飲みましょう。ところで、一人なんですか?」
「いや、あー、相方がいたんだが、急用で先にメトロシティへ行ったんだ」
湊はバツが悪そうに答えた。
「それならなおさら、乗せてってやる、来いよ」
「こんな荒地に置いてけぼりなんて、なかなかその、厳しいお連れさんですね」
「まぁね、いつものことだから」
と苦笑いしつつ、相方に連絡を入れると言って、少し二人から離れた場所で琴平に通信を送った。既に現地のモーテルにチェクインして、笠原との合流待ちだと言う。
「ふむ。任務成功か。よくやった」
例によってまったく感情の見えない受け答えである。さも当然というような物言いで琴平は答えた。
「若干負傷したが。事務局への連絡は頼んだぞ」
「ふむ。それが今のきみの現状だ。次からは心してかかりたまえ。つまり、きみは彼らとメトロシティに来れるのだな?」
「あぁ、着いたらすぐに合流するからマップデータを送ってくれ」
「ふむ…。せっかくだから、彼らからも情報を得なさい。なかなか友好的なのであれば問題なかろう。街の情報は街に住んでいるものから得るのが一番だ」
「おい、待て。待って。苦手なんだよ、そういうの。拓の仕事だろ? 連絡ついたんだろ?」
湊は慌てて振り返る。高見と黒澤が雑談しているのを見ながら。
「苦手を克服して行くのも大事なことだ。新人の湊くん。また後で連絡する」
こちらの静止も聞かずに一方的に通信を切られてしまい、湊はため息をつきそうになるが。この状態で彼らの誘いを断り、徒歩で向かうのもよっぽどおかしいだろう。彼らに向き直り、なるべく友好的にと心がける。
「なんだ、その。…、便乗させてくれると助かるよ。ついでに酒の一杯でも」
「もちろんだ。じゃあ行くぞ」
そう言って黒澤は、首を振って車に案内した。車は既に、彼らがリモコンで呼んだのか、かろうじて原型を保っている道路沿いに停められていた。それにやや遠慮がちに乗り込むと、車は一度大きく揺れて発進した。
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