メトロシティに向かえ(2)
「こんな物騒な区画でたった二人でなにしてる?」湊は訊く。本音である。
「ここには普段、あんな数の違法は出ないんだ。リサーチ済みだし、こんなことは初めてだ」
若見えする外見に反し、ゆっくり落ち着いた声で彼は言葉を返した。自分の年齢も中途半端だが、少なくとも5つ程は離れていそうな落ち着きがある。
「なるほどね」湊は足元の機体を小突いた。音波採集口からオイルのような物が垂れていた。
「突然これだけ出てきたってわけか」
そう言いつつ辺りを見回す。街と反対側の空には、オレンジと藍色のコントラストができ、見上げると星があった。星を見るのは久々と思いつつ視線を戻した。
「今日の今日で、違法投棄されたのか誰かが呼び寄せたのかはわからんが。事務局にはこっちからも報告しておくよ」
「あぁ、そうしてくれ」
湊は眉間にシワをよせながら返事をし、胸をさすった。痣になっている程度なら今日の自分を褒めてやってもいい。琴平からは苦言を頂きそうではあるが。
「にしても助かったよ、あんた大丈夫か」
自分の体を確かめていた湊をみて、男が口を開く。
「問題ないんだが…、あぁいう重量系はやっぱ苦手でね。あんたの援護がなきゃ危なかった」
と、言いながら湊はオートマタから抜き取ってきたボウガンの矢を束ねて彼に渡した。本音である。そのうえ彼の掩護は非常に読みやすく、こちらも動きやすかったので、そのことを伝えると、彼は満足そうに頷いて見せた。少なからず自分の腕に自信を持っている男は、信用できそうだ、と湊は思った。
彼は思い出したかのように“黒澤”と名乗り、握手を求めて左手を差し出してきたので、胸をなでおろして右手を差し出す。義手の方だ。発疹が出なくて済む。
「湊だ」と非常に違和感を持ちながら名乗る。
「え? 暗くてわからなかったけど、あんたこれで応戦してたのか。あの動きは?いつもなら救難呼んでも逃げて終わりだったのに、これだけ破壊できるなんて」
「慣れだよ。それにオートマタ相手だと動きやすいんだ」
わかるだろう? と視線で促してみる。わかったようなわからないような面持ちで黒澤は頷いた。湊は続ける。
「暗くてわからなかったけど、あんたの装備もなかなか、そう。驚きだよ。二刀流っていえばいいのか? そういうスタイルって」
「ああ、まあね、いつのまにか両方使うようになったよ。融通も利くしね」
黒澤は満足げに2つの装備を掲げてみせた。人手不足を切り抜ける策はないかと、いろいろ試しているうちにこうなったらしい。
すると、どちらかの端末からか、通知音が聞こえた。二人とも同時に確認するが、黒澤の方に連絡が来たようだ。湊といえば、義手のインパクトのおかげで自分の名前やIDについて質問されずに良かったと、ひっそり胸をなでおろす。そのまま話を続ける。
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