メトロシティに向かえ(1)

 湊は少しだけ警戒しながら男の方へ近づいた。男も瓦礫の山を慎重に滑り降りて、こちらに駆け寄ってくるのがシルエットでわかった。辺りは薄暗くなっており、頼りになるのは離れた高速沿いの道路灯だけだった。ほとんど意味のないくらいの灯りだったが、湊はライトを付けるのを躊躇った。自分の位置と振る舞いを先に見せたくなかったからだ。


 むずがゆい頭に指を突っ込むと、雨と汗で湿った髪がわずかに砂塵を含んでいるのか、ざらついた感触だった。むき出しの鉄骨を足で跨いで進んでいるうちに、向こうがこちらに到着した。近づいてみると思っていたより小柄であるため湊は驚いた。華奢と言えばいいのか。少なくとも自分よりは背丈は低いように見える。


 左腕に装着してるのはスリンガーだろうか。背負ってるのはボウガンだ。自分が破損したオートマタから引き抜いてきたからその本体だろう。成程、彼からの砲撃が途切れなかった理由はこれかと、湊は舌を巻いた。体型に似合わぬ装備量に違和感を覚えなくもないが、全くブレずに目標へ攻撃ができるところ、熟練者なのだろうと湊は思った。


 薄暗いが近づけば表情も確認ができた。おそらく年齢も相手のほうが上だろう。貫禄まではいかないが、どことなく、余裕さが感じられたからだ。湊の警戒とは裏腹に、相手はそれほどこちらを怪しんでおらず、むしろ友好的であった。その反応に少しばかり驚いているうちに、灯りをつけよう。男はそう言って、スリンガーに触れた。ライトが装備されてるのだろう。足元だけを控えめに照らした。反射光が照らすおかげで互いを確認することができた。


 彼は湊の足先から頭のてっぺんへ視線を這わせて、わずかに笑みを浮かべた。敵意の無いことの表れに見えて、湊は意識的に肩の力を抜いた。視線が合う。大きな目で、それはどこかフクロウを連想させた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る