湊と名乗る羽目になった男の話(3)
「この装備品、どっから拝借したんだ?」
きみはケースを指差して訊く。
「なに…ツテがあるんだよ。装備は整えておきなさい。きみがいつでも出動要請に対応できるようにだ。エリアに蔓延る違法オートマタへの緊急対応はまっさきにきみらタグ付き者に来るだろう。それにも増してアタッカー不足の世の中だからな。しかしきみがヘマをすればその責任はすべて私に降りかかることになるから、くれぐれも気をつけ給え」
「笑えるよほんとうに」
きみは皮肉げに、後ろ腰に装備したナイフの柄に触れた。オートマタに対応するための装備は様々だが、きみは自分の機動力を活かせて小回りの効くナイフを好んだ。小振りだが、機械の装甲をねじ切れるように微振動モータを搭載していて、万が一バッテリーが切れても叩き切るくらいの力は持ち合わせていて尚且つ絶縁体である。サブウェポンとしてセミオートマティックも携帯してるが、あまり使うことはない。どちらかというと人間相手の護身用だった。これらの装備品も事務局から許可が降りなければ使用ができなくなっている。
というより、通常は遭遇してしまった場合、なによりも戦いを避けることが最優先されるため、いっそ使わないほうがいい。アタッカーなどという、いかにも攻撃手段を取り揃えていそうなポジション名でも、それは”遭遇してしまった際、いかにして逃走ルートを確保しながら足止めできるか”に尽きる。はじめから破壊依頼を受注すれば話は別だが、その場合は、先の一掃作戦のように複数の会社が合同で作戦を進めることが主流となっている。本当のところ、アタッカーが一番よく使うのは煙幕と電磁グレネード。あとは姿をくらますことができるホログラムシールドなどでそれが切れてしまえば問答無用で、非常にハイリスクの中、自力で攻防する必要がある。
だがこれは通常の場合だ。きみの場合は違う。きみは初動の慎重さは当然持ち合わせているものの、確実に違法オートマタを破壊することを目的としている。というより、それができる人間だった。数や状況を見て建て直すために逃走することはもちろんあるのだが、必ず戻り、それらを破壊する。目的があるからだ。
その反面、面白いくらいに人間相手への攻防は不得意だった。同じ人間とは思えない範疇でレベルが下がる、とは琴平の厳しすぎる評価だが、全く相手ができなくなるわけではない。どうにも、人間の動きを見計らうのが苦手なうえ、無意識に人間に触るのを避けている…とは琴平の考えだが。だから今回の病院送りの原因も奴らでなく人間に突き落とされたからだし、自分が死ぬときはたぶん、うっかり転んで頭の打ち所が悪くてそのまま死ぬんじゃないかと思うくらいだった。
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