湊と名乗る羽目になった男の話(2)
長年追いかけあっている割には、自分がウェティブについて知っていることは少ない。相手がオートマタという、いわゆる人造人間のような存在であること、自分にもわずかにその成分があること、互いに嫌いあってることは除いて。
琴平から聞いたことによると一番大きなところは、同じ場所で生まれたことだろう。そこから自分とウェティブの分岐点はどこにあっただろうか。デザイナーベイビーとして生まれた時か。実験の対象になった時か。片方だけ人間のまま、片方だけオートマタになった時か。琴平によって自分だけ外に連れ出された時か。
そうなってなければ自分も実験に使われてたかもしれない。成功すればウェティブのように動けはするだろう。失敗すれば廃棄だ。違法オートマタの一部になって、誰かに破壊されていたかもしれない。
結局自分は、自分とウェティブはなんにでもなれてしまうのだ。そういう風に造られて生まれた。自分は伊野田に戻るのと湊のままで居るのと、何が違うだろうか。伊野田に思い入れはあっただろうか。などどいう考えを投げ捨てるように勢いをつけて起き上がる。
何度もウェティブと攻防を繰り返しているうちに麻痺したのかもしれない。普通の生活をしてみたかった。ただ朝起きて散歩や仕事に行き、用事を済ませて家に帰る。誰かと食事をしたり喧嘩をしたり。昔に琴平に見せてもらった映像で観たような普通の生活だ。そんな不毛な考えを頭の片隅に押し込み、琴平から用意された装備ケースのハッチを開く。どこから調達したのか、なじみのあるジャケットに袖を通したところで、琴平がやって来た。
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