笠原拓の話(4)

 互いに20代半ばの頃だ。勢いと自信を足して謙虚さを引いたものに若さを掛けたくらいの年代だ。ひょんなことから出会い、紆余屈折を経て意気投合したのである。簡単に言ってしまえばそれくらいのものだった。しかし笠原にとっては、その時飲んだ酒の味がわからなるほど、少々恐怖味を帯びたようなそんな時間で、それをドラマティックだと表現すれば聞こえはいいかもしれない。


 あいつが普通のアタッカーでないことは、当時から動きを見てわかっていたはずだったのだが、自分は少々浅はかだった自覚はある。ロックオンされた獲物の気分を味わったというか、アタッカーの神髄を垣間見たというべきか。


 人の顔から友好的な成分がすべて消え失せた瞬間の中にいる、生きてる心地のなさ。まるで見てはいけないものを見てしまったような、もう後のないような…。そう。非常にドラマティックであった。


 アタッカーと、笠原工業の内情を知る者という、本来なら対立し合う者の話が落ち着くところに落ちるまで、笠原は内心気が気でなかったし、あいつも自身の理由から警戒していたはずだ。


 実際のところ、笠原が名乗った時に、あいつはその気になればすぐに飛びかかれるように体勢を変えたのだ。薄明かりのバーカウンターだった。鋭さを増した険悪なダークブラウンの目元に皮肉げな笑みを含めた隙のなさが、それを物語っていた(後にあいつが対人間にはそれほど強くないと琴平から聞かされたが、それはプロの意見であって自分じゃ歯が立たなかっただろうと自覚はある)。


 いずれにせよ互いの目的が同じで境遇を理解できるもの同士ということで、話がまとまったあとに打ち解けるのは早かった。その頃には、彼は最初の顔に戻っていた。ただの酒好きで陽気な男に。この二面性に慣れた頃、あいつから琴平を紹介されたのである。

 

 それほど昔のことでもないのに、自分の未熟さとあいつの危うさを思い出して、笠原は少しだけ笑った。

 ふたたびログに目を通すと、手がかりになりそうな情報が目にとまる。エリア内から出てきた機体のログで、別のルートからもハッキングされた形跡が見られた。それはエリア内のメトロシティから発信された信号だった。


 彼はコーヒーを飲み干して腕時計に視線を落とす。エリアに入ったらまずはメトロシティに向かおうと思い立ち、足早に駐車場へと向かった。

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