笠原拓の話(2)
笠原は気を取り直して、ここに来る途中までにハッキングしたオートマタのデータを確認した。
主に廃棄された機体や故障している機体に端子を接続させてデータを取得するのだが。こういった機体は放置された後でもしばらくは内部電源でハードディスクだけは生きていることがある。そのため自分がそこに居なくても、点在している機体に残されたログが情報散策の頼りになることがあるので、笠原は度々この手法を使っている。過去に知人が破壊したオートマタだった…なんてこともあるため、今回も手がかりがあるかもしれない。笠原は入念にログを辿った。
しばらく調べた後、頭を掻いてコーヒーを啜りふと、物静かな照明の灯るダイナーの隅で考えてしまう。昔を振り返るなんて自分にとっては良くないことだ。一人で動いていると、稀に自己嫌悪に陥りそうになるが、そんなものは無駄ということも分かっているのですぐに頭を切り替えられる。そんなところが自分で気に入っていた。
窓の外に目を向けると、暗がりの中を稀に車が通過していく。この先もう少し辛抱して車を走らせればモールがあるとマップにあったから、ほとんどの人はここを通過するのだろう。トイレついでにドリンクを持ち帰る客ならいるかもしれない。改めて見回すと店の客はまばらだった。
カウンターに常連客風の男が一人。ライダースジャケットを着てウエイトレスと話をしている。テーブル席にカップルか兄妹か…、身内があんなに顔を近づけて話すことはないからカップルだろう。外に停まっているキャンピングカーは彼らのだろうか。それだけだ。人間しかいない。要するに空いている。
色褪せた壁に、同じくらい色褪せたアートを曲解したような絵画が飾られていて、数年前に流行ったような音楽が流れている。要するに、高速沿いのくたびれたダイナーである。エリアへ移動中、何件かダイナーに寄っていたので、要するに自分は飽きてきたのである。うっすら伸びてきた髭をさする。
こういった気を緩めたときや慣れた時が危ないのだが。
笠原は息をついてウエイトレスを呼び止め、追加でコーヒーとミートパイを注文をした。しばし待つと、プラスチックの皿に、申し訳なさそうに佇むツヤのある生地のそれが運ばれてきた。ナイフを通すと、すぅっと湯気が香りを連れて上昇する。これでやっと自分が空腹だということに気づき、簡単に平らげたあと、コーヒーを流し込んだ。熱いコーヒーで頭がクリアになるのがわかる。
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