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笠原拓の話(1)

 笠原拓は、道路脇のダイナーでモニタグラスを外しテーブルに置いた。椅子の背もたれに両ひじをかけて、背中を伸ばし首を回した。ついでに肩も揉んでおく。

 無意識に吐き出したため息がどこかに消えた。やはり、この場所から目的エリアに接続しようとしても、受け付けられなかった。距離が離れているだけでなく通信状態がすこぶる悪い。


 リモートエクスプローラが起動できれば、モニタグラスを通して探索ができるのだが。公共エリア内に限られるが、自ら街を歩き回る必要がなくなるので、下見や情報収集などによく使っていた。本来は数年前に偵察用に開発されたものだったが、精度が上がり今は企業向けに普及している。それを応用して個人的に利用しているのだ。一般販売はされていないが、主に病院関係者や警察隊から普及の要望が上がっているのを度々ニュースで見ていた。だが特殊な通信とプリンタが高額なため難しいのが現状だ。

 

 リモートエクスプローラの使用中は使用者本人のホログラムが街に現れる。笠原の場合は仕事柄自分のホログラムではなく姿を変えている。登録名も本名でなく、エクスプローラ名なので足がつかない。さらにいえば、公共エリア以外にも入り込める。


 しかしエリア内の違法オートマタ一掃作戦の影響か、ネットワークの警戒レベルが上がっているようだ。もともとエリア内は高密度狭範囲の通信システムで成り立っているので、エリア外とは、通信形態も異なる。そのため、エリアで通信制限をかけてしまうと、エリア外からのアクセスは非常に混雑してしまう。特にリモートホログラムのように通信量の多いものは受信され難くなってしまうのだ。通信不可というわけではないため一応起動はするのだが、動きはぎこちない上、視界に広がる画質も荒い。


 グラスには、酔いそうなほど歪んだ画面が映るだけだったし、歩いてみようとするがほとんど動かない。腕のいいネットウォーカーでもいれば回路をとれるかもしれないが、いま連絡がとれる奴はいない。これはやはり直接エリア内に乗り入れないことには、二人と合流するのは難しいかと、彼は頭を悩ませる。できれば、特に笠原工業が所在しているエリア内には自分は入り込みたくないのだが。

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