琴平の話(2)

「そうか…」

 きみは頭をふらふらさせながら、力なくベッドに倒れ込んだ。もう何も聞きたくないし、受け入れたくもない。しかし琴平はそんなことなど気にせずに話を進めて行く。


「まだ寝ぼけているようなら、それで構わん。少々ボンヤリしていた頭のほうがショックも軽いだろう。まあ、きみが、物事にショックを受けるほど繊細な男とは思っていないがな。これを見たまえ」


 そう言って琴平が自分の腕時計端末に触れると、ホログラムが浮かんだ。IDが浮かび上がったので、仕方なくきみは体を起こす。ベッドの上で胡座をかき、眺める眉間に皺が寄った。


「これは? ミナトって誰だ? 次の案件のことか?」


琴平は、じっ…ときみを見つめる。


「これは今のきみだ」

「ん?」自分とは思えないくらい素っ頓狂な声を上げる。

「いまの、きみのID」琴平は真顔で、目もそらさず告げる。秒。


「……? 意味がわからないんだけど。次の作戦で使うIDのことか? 」

 琴平は首を横に振る。きみも首を横に振る。じわじわと、胸のあたりから込み上げてくるのは、溶けたプラスチックを吐き出そうとしているかのような非現実的状況だった。


「ハッキングか? さてはウェティブの乗っ取りじゃねぇだろうな?」

 まさかという気持ちでつい半笑いになってしまうのを堪えながら。


「そうだ」そう告げながら琴平は時計型端末からファイルを展開させる。きみはさらに重たくなった頭を左手で支えながらそれを眺めるしかなかった。


「先日、エリアのIDデータバンクが攻撃されたニュースがあったな。個人データが盗まれる被害があった。気が付いた事務局が即座に対応したため被害は抑えられた、となっているが」

「おれのIDが被害にあったってのか」

「そうだ。きみが病院送りになった時既に、きみの。伊野田のIDが奪われた。ハッキングログにウェティブの名前が残されていたよ。ウェティブはあれくらいの騒動が起きるのを待ってたんだろう。きみが人間相手にすこぶる弱いのもわかったうえで、きみが巻き込まれるのを待っていた。違法オートマタに対しての作戦で大元の笠原工業が動かないわけがないからな。なかなかずる賢い作戦といえよう」


 琴平は、まるで講演会でもしているかのように、嫌味なほどスムーズに画面を切り替える。

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