きみの話(3)

 ドアが閉まり数秒したあと、きみは左手で顔を覆った。わずかだが気を失う前の最後のシーンが脳裏に蘇る。高所に駆け込んだ所から突き落とされたような気がしてきた。


 そうだ。違法オートマタの相手をしていたはずなのに、最後に見たのは人間の顔だった。どうして人間とオートマタの違いがわかったんだっけ…。

 事細かに思い出そうとするとなんとなく吐きそうになるが、それは胃の中が空だからであると理由をこじつけ、ため息をついた。突き落とされて、泥まみれになって発見され、全身洗浄されたということか。笑い出すのが嫌なくらい情けない。


 右手の義手が外されたままのことに、少し不自由さを感じる。あぁ、確か夢の中でもこのせいで落下したな、と思いながらあたりを見回した。

 なんてことない、ただの病室である。窓の外が明るく見えるから夜ではないが、それが映像でなければの話だ。風はない。部屋に時計もなく時間の感覚が取り戻せないことが気持ち悪かった。施錠もされていないし、このまま勝手に外に出てしまおうか…そんなことを考えていると扉が開いた。


 男が入ってきた。それはよく知った顔だった。

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