第5話 名前(4)荻島雷

 荻島おぎしま らい


 第四章、スピードスケート編の主人公です。

 前作「SILVER EDGE」には出てこない、新規のキャラクターです。

 「SILVER EDGE」では、スピードスケート選手としての刀麻とうまはほとんど描けずに終わったので、リメイクするのなら必ずそこに焦点を当てなくてはいけないと思っていました。

 なので、まず第四章を書いてみよう、というところから「氷上のシヴァ」は始まりました。

 スピードスケート編が書けたら、フィギュア編も書いていい。

 逆に、スピード編が書けない限り、この作品を蘇らせることは不可能だ、と。

 

 どういった側面からスピード編を描くのが、小説全体にとって一番良いだろうか? と考えた時に、各章の主人公に振り分ける「氷上に懸けるモノ」を改めて整理しました。


 第一章 山崎里紗は「恋愛」

 第二章 星洸一は「プライド」

 第三章 朝霞美優は「闘志」

 第五章 霧崎洵は「アイデンティティ」

 第六章 女性スポーツライターは「未来」

 第七章 霧崎汐音は「他者」


 尺の都合で省いた六と七を除くと、「憧れ」というものが空いているな、と気付きました。

 そこで、刀麻のように速くなりたい、と憧れる幼馴染のスケーター、という像が浮かび上がり、雷の原型が出来上がりました。

 

 この小説を書く上で何よりも気を付けたことは、各章の主人公が始めと終わりで「変化」していなければならないということです。

 雷の場合は、最初から最後まで刀麻に憧れたままでは、刀麻を語る物語のピースで終わってしまいます。

 各章が、刀麻の物語である以上に、主人公一人一人の物語であること。

 これもまた譲れない信念でした。


 というわけで、「憧れ」からどこへ着地させようか、と頭を悩ませながら書き進めていたら、「誰よりも速く」というスピードスケートの競技としての本質が無視できなくなりました。

 要は、誰かに憧れたままでは、誰よりも速くはなれない、ということです。

 憧れの人物を、超克すべき対象へと変える。

 この転換を閃いた時、あ、最後まで書ける、と思いました。

 四章だけではなく、全部。


「アイシールド21」という漫画で、主人公の小早川こばやかわ瀬那せなが走るべきルートを見出す時に、光の通り道が見えます。

 瀬那本人の目からではなく(もちろん本人にも見えているのでしょうが)、もう少し後ろから俯瞰ふかんした状態で、スペースを埋めるプレイヤー達の隙間を貫くように、閃光が走るのです。

 そこを、瀬那は駆け抜けます。


 物語には通るべき道というものがあると思います。

 錯綜さくそうする感情を精査し、切り分け、整えていった先に、ほんの一筋、でも確実に向こう側まで繋がっている通り道が絶対にあります。

 それは必ず一本です。

 人一人がやっと通れるかどうかの、細い道。


 光の通り道が氷上に投影された瞬間。

 私はこの物語を完成させられる、と確信しました。


 さて、本題の名前についてですが、「荻島おぎしま」という名字は「湾岸ミッドナイト」の荻島おぎしま信二しんじから取っています。

 第四章は刀麻が「シバ」と名字を端折はしょって呼ばれているので、呼応するような名字がいいと思い、「オギ」と端折れる荻島に落ち着きました。


 名前の「らい」については、スピードスケート編ということで速さを彷彿ほうふつとさせるものを、と考えて「頭文字D」のアーケードゲーム版の主題歌「雷鳴-out of kontrol-」(m.o.v.e)から取りました。

 スケーター条件の「あめかんむり」を満たしていたのも良かったです。

 (名字先行型のキャラクターだったので)



 ……いよいよ創作論と命名論がごっちゃになってきたぞ……。

 まあ、切り離すのが難しい話題ということで……。


 では、また次回。

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