第4話 名前(3)星洸一、星浪恵

 ほし 洸一こういち


 とても気に入っている名前です。

 洸一の性格にもスケーティングにも、そして第二章の雰囲気にもすごく合っている名前だと作者的に思っています。


 洸一も前作「SILVER EDGE」から引き継いだキャラクターです。

 性格もあまり変わっていませんが、「氷上のシヴァ」の方がより慎重で、内向的な性質に拍車が掛かっているかもしれません。

 書いていくうちに、洸一の生来の気質が深化していきました。


 元々「SILVER EDGE」という作品は、スケート部のロッカーに眠っていた「悪魔の靴」をめぐる物語という、身も蓋もない「湾岸ミッドナイト」のパクリ的な代物だったのですが、この靴の持ち主が、怪我で現役を退いた洸一なんですね。

(これについては、第二章第16話「悪魔の靴」に名残がありますので、改めて参照していただくと味わい深いと思います。)


 作中最も「湾岸ミッドナイト」色が濃いキャラクターということで、名前もモロにそれが反映されているというわけです。


 「湾岸ミッドナイト」には「洸一」というキャラクターが三人出てきます。

 平本洸一。相沢洸一。城島洸一。

 どの人物もストーリーのキモとなる重要なキャラクターで、作者の楠みちはるがいかにこの名前に愛着を持っているかが分かります。

 (この「名前を使い回す」という楠みちはる独特の癖は、惰性ではなく哲学だと私は見ています。いずれ別枠を設けて私なりの「湾岸ミッドナイト」考として語る予定です。)


 「洸」という字が「さんずい」付きでスケーターの条件を満たし、「水が沸き立ち、四方に広がる」という意味なのも良いと思いました。 

 

 名字については、元々ぼんやりと、少し俗世離れしたものがいいなあと思っていて、「洸」のつくりが「光」であることから、何か光るものをということで、最終的に「星」に落ち着きました。

 高校時代、オーケストラ部の後輩に星くんという子がいて、いい名字だなと印象に残っていたのも影響しているかもしれません。


 こうして、「星洸一」という私の創作歴の中で最も美しい名前を持つキャラクターが出来上がりました。


 ちなみに、洸一の祖母である「浪恵なみえ」も「浪」という字でスケーター条件を満たしています。

 これは、雫井脩介の「銀色の絆」というフィギュアスケート小説に出てくる上村美なみというキャラクターからインスパイアされました。

 和製タラソワのようなコーチというキャラクター造形も、非常に影響を受けています。


 浪恵は前作「SILVER EDGE」では「星壮一郎」という男性キャラクターで、洸一の祖父という設定でした。

 リメイクの際に読み返したら、この祖父が全然動かず、ストーリーの歯車として機能していないな、と思い、試しに女性に性別を変更してみたところ、オイルを差したようにストーリーが回り始め、「ほし浪恵なみえ」が生まれました。


 ちなみに、第三章第7話「身体の呪縛」で、大学生時代の美優にアイスダンスへの転向を提案した「星先生」というのも浪恵です。サラッと流しているので、気付いた方は少ないかもしれませんが……。

 浪恵は瑞紀みずき(刀麻の母親)と美優の師でもあるんですね。


(ちなみに瑞紀と美優は、一度だけ同じ大会に出ていて、そこでちょっとした因縁があるという裏設定もあります。瑞紀は刀麻を出産した後、一年だけ現役復帰し、東日本選手権でシニアデビューしたての美優と対峙するのです。リンクサイドでまだ二歳の刀麻が正輝に抱かれ、瑞紀の演技を見ており、その様子を更に美優が見ている、という……なんだか、これで一編小説が書けそうな気がしてきました……)


 というわけで、今回は星洸一と星浪恵についての命名秘話でした。

 次回は、第四章の主人公、スピードスケート選手の荻島おぎしまらいについて語りたいと思います。

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