第3話 名前(2)霧崎洵

 霧崎きりさき じゅん


 何て読むんですか? とよく訊かれます。

 霧崎という名字は、実際には存在しないようです。

 涼宮や冴島と同じ、ありそうでない、幽霊名字。


 洵という漢字も、男性ではあまり見かけない気がします。


 前作「SILVER EDGE」より、最も濃く性質を受け継いだキャラクターです。


 フィギュアスケート小説を書こうと人物設定を練っていた段階では、主人公の予定でした。


 当時「黒子のバスケ」にハマっていて、敵チームに霧崎第一という学校が出てきたのを見て、「キリサキ」という響きに惹かれました。


 スケート靴のエッジが氷を「切り裂く」刃物である、という私の独特の解釈に、ぴたりとハマったのです。


 下の名前は、できれば「さんずい」が付く漢字がいいなあと色々思い浮かべ、最終的に「湾岸ミッドナイト」に出てくる北見淳から、「じゅん」という名前を拝借しました。


 「淳」ではなく「洵」にしたのは字面の問題です。

 高校生の時に同じクラスに「洵子」という女の子がいて、すごく瑞々しい、良い名前だなあと感じていたので、「洵」に決めました。


 洵は中性的な外見(物語が進むにつれ変わっていきますが)をしているという設定もあり、ビジュアルイメージ的にも「洵」という漢字はハマりました。


 なぜ洵が主人公から外れたのかというと、単純に洵のようなキャラクターはライバルの方が映えるというストーリー構成の都合だったと思います。


 ですが、実際に書ききってみると、洵は「氷上のシヴァ」の第二の主人公になりました。

 皆さんが第五章を通読した後、「第二の」という枕詞は取れるかもしれません。


 洵は「影」という性質を持って生まれている気がします。


 実は、先日すばる文学賞(小説すばる新人賞とは別の賞です)に応募した「氷の蝶」という作品は、彼の双子の妹、しおが主人公の物語なのですが、そこでも洵はさながら汐音の影であるかのように動き続けました。


 キャラクターというものは、自律性を持って生まれてくると思います。

 作者にもコントロールしきれない部分が確実にあるというか、むしろそちらの方が大きいのではないでしょうか。


 作者にできることは、感情の水路を整えることくらいじゃないかと、洵を見ていると思うのです。

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