第2話 名前(1)芝浦刀麻

 芝浦しばうら 刀麻とうま


 主人公の割に、最もスケーター要素が薄い名前です。

 「さんずい」の漢字が名字の「浦」のみ。


 主人公の名前を設定するにあたり、最も譲れない条件は「“シヴァ”を彷彿とさせるもの」という点でした。

 何と言ってもタイトルロールですから。


 したがって、芝、柴、司馬(これかっこいいなあ)、斯波(これも厨二心がうずくなあ)あたりに自然と絞られてきます。

 いずれもファーストネームに適用するのは厳しそうだ、ということで、まずは名字を「シバ……」で固定。

 そして、先に書いた通り、私は「湾岸ミッドナイト」が好きなので、その聖地である「芝浦パーキングエリア」から、最終的に名字をいただきました。


 ファーストネーム、刀麻とうまは二転三転して現在に至っています。


 実は「氷上のシヴァ」は、過去に書いた「SILVER EDGE」というスケート小説をリメイクしたもので、元々主人公は「悠李ゆうり」という名前でした。

 しかし、「SILVER EDGE」が某ラノベ大賞から落選通知を受け取ったのとほぼ同時期に、フィギュアスケートアニメ「ユーリ・オン・アイス」の制作発表がなされました。

 フィギュア界隈に大々的に広告を打ち、グランプリシリーズともコラボするようなアニメと主人公の名前がかぶっていては、この作品に未来は無い……。


 こうして、「SILVER EDGE」ともども「悠李ゆうり」はポシャったわけです。

 

 そこで、「ユーリがダメならトーマだ!」という安易な発想(萩尾望都「トーマの心臓」)で、主人公の名前は「トーマ」に行き着きます。


 どんな漢字を当てるかは不思議と迷わず、「刀麻」がストンと来ました。


 これは、「快刀かいとう乱麻らんま」という四字熟語に由来しています。

 鋭利な刃物でもつれた麻糸を断ち切るように、こじれた物事を解決するという意味です。


 スケート靴のエッジが刃物のように鋭い、ということからも、「刀」という漢字は是非使いたいと思いました。


 この改名のカラーが最も出ている章は美優の章です。


 第三章、21話で「俺は刀。エッジは刃だ」と刀麻自ら言います。

 また、23話では美優が「あなたの潔さは本当に刀のよう。私の感傷も断ち切ってしまう」と形容しています。


 ここには、作者としての私のただならぬ想いが込められています。


 最終話で美優が「新しく生まれ変わらせて。そのためなら、私はたとえ悪魔でも、その翼を羽ばたかせてみせる。手段は選ばない」と言います。

 あれは、刀麻と悠李に対する私の心の叫びでもあるのかもしれません。


 名前を変えるというのは、人格を変えるということ。

 悠李ゆうりを葬ることでもありました。

 

 私は自分の小説という世界を守るために、悠李ゆうりを犠牲にしました。

 この罪悪感は今でもずっと、私の胸の奥深くにあります。


 この「殺人」を無意味なものには絶対にしない。

 必ず「本当のあなた」を生み、この世に受肉させる。


 そういう覚悟をもって、私は刀麻とうまを送り出したのです。

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