勇者に惚れてしまった
仲仁へび(旧:離久)
01
魔王というと、残虐非道というイメージがついてまわる。
それは紛れもない事実だ。
どうする事もできない。
目指している、目指していないに関わらず、魔王の後継者にはそういったイメージがついてまわるのだ。
当然、魔王である俺は、敵を殺すし、場合によっては味方も殺す。
だから、そんなイメージが代々の魔王につき続けるのは、ある意味打倒な事だったのだろう。
しかし、だからといって我々は必要以上の犠牲を出すことはしない。
俺達の悲願は、世界の統一。
世界をただ一色に染め上げるだけなのだから。
けれど、恨みを買い過ぎたら、命を狙われる確率が高くなるし、領地の統治にも響く。
だからバランスとりが必要だ。
俺達は無用な殺生はしない。
勇者が抱いている血も涙もない残虐な魔王というのは、ある意味的外れなものだった。
そんな中で、領地の統治と、血気盛んな魔族達のいざこざの解決など、多くのやるべき事に追われていると、一人の女が魔王城を尋ねてきた。
本人は魔族だというが、俺は一目でわかった。
そいつは人間、そして勇者だった。
おおかた、弱点をさぐるために、潜り込みに来たのだろう。
忙しさに忙殺されていた俺は、逆にそいつを利用して使い潰すつもりで雇った。
それから数ヶ月間、下っ端の使用人として雇ったそいつの様子を見る事になったが、勇者は思ったよりも優秀だったらしい。
みるみるうちに、役割をこなし、できる使用人となった。
勇者に使用人の素質があるとは、何とも滑稽な事だ。
面白くなってきた俺は、そいつを自分専用の使用人にする事にした。
「魔王様。本日の予定ですが。いかがいたしましょうか」
勇者をはべらせる魔王など、前代未聞。
聞いた事がない。
だが、だからこそ面白かった。
しかし、遊びつもりで雇ったそいつに、思い入れが強くなってしまったのは誤算だった。
「これを俺にか?」
「ええ、誕生日ですので」
ある日、そいつが選んだという誕生日プレゼントを渡された。
俺は魔王で、多くの魔族たちのトップ。
恐怖と力で支配する俺は、誰かからそんな事をされて事がない。
俺は、初めての感情に戸惑った。
「この間の礼だ。大切に持つがよい」
「ハンカチ? 私にですか? ありがとうございます」
「お前は魔王であるこの俺の使用人だ。身だしなみには気を付けよ。元が良いのだから、苦労はしないと思うが」
「そっ、そうでしょうかっ」
だから、礼に贈り物をして、赤くなって照れたそいつの反応を見た。その時に勇者に惚れてしまった事に気がついたのだ。
光と闇。
正義と悪。
勇者と魔王。
俺達の道は決して交わる事がない。
いつか、どちらかが血を流す事になるのだろう。
俺はその時に、この気持ちを捨てられるのだろうか。
勇者に惚れてしまった 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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