ミンミンゼミ

 毎日セミが死んでいる。いや、実際に死んでいるかどうかはわからない。見分ける方法はどこかで見たような気もするが、そもそもあまり虫が好きじゃないから間近で見たいとは思わないし、死んでいたとしても出来る限り近寄りたくない。と思う。


 眠れない夜が明け、朝。閉め切った窓の向こう側からセミの鳴き声が始まった。段々と増えていく中、下手くそな鳴き声のセミがいた。ミンミンゼミのようだが、ミンミンと鳴くのが苦手なようだ。ミ、ミェ、ミーェと鳴いている。不安げなセミの声は可愛らしくて、またその不安は、上手く生きられない私の泣き声にも似て、哀れだった。頭痛に呻きながら起き上がり、支度をして外に出る。朝の数秒であのセミの声は消えてしまった。カンカンに晴れた空には大きなセミの影が飛び交っている。虫は苦手だ。夏は虫の死骸の季節だ。道端には潰れたセミやカナブンがあちこちに無残に散らばっていた。


 鳴くのが下手くそなセミは、それでも土の中で何年も過ごしていたのだろうか。他のセミと同じように鳴けると信じて眠っていたのだろうか。外に出て、あの哀れな声で鳴いて、絶望したのだろうか。それとも私が聞き分けられなかっただけで、あの情けない鳴き声の次にはまともに鳴けたのかしら。虫が嫌いな私に知る由もなかった。助けを求めるばかりで手を伸ばすことすら出来ない私よりも、ずいぶんとまともなように思う。私の劣等感はどこまでも下へ下へと沈んでいく。セミならば、鳴き終わる頃にはもうなんのしがらみもなく地面に落ちる事が出来るのに、私は。


 公園の木を眺めると、セミが2,3匹木の幹にとまっている。手本のような鳴き声で鳴いている。私が小さかった頃はもう少し鳴き声が長かったように思えるが、気候の変動故か、暑さに弱いらしい最近のミンミンゼミは息継ぎが多い。彼らは生きるのが上手いのだろう。そうやって耐えているのだ。息継ぎすら不得手の私は、それでもどうにか生きていかなければならないのに、今日も溺れる寸前のような、必死の呼吸を、泣き声を繰り返す。

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