痛み

 お腹が痛い。これは笑っている事の比喩ではなく、言葉の通りに痛いと思ってもらって差し支えない。3年ほど前から続いている。私の小さな悲鳴は掛け布団の中に吸収される。痛みは激痛には程遠く、我慢して出来ない事でもないのだが、思考するために設けている休息の時間を『お腹が痛い』に奪われていては困るのだ。


 今、私は極力お腹を刺激しないようにしながらこれを書いている。お腹の痛みで夜眠れず朝は寝起きがつらく、睡眠不足も相まっているため夢と現実の狭間を彷徨いながら、である。気付くと手元では訳の分からない単語が生成され、それを辞書登録しようとしていることもあるが、一文字一文字、粘土板に刻み付ける古代人のように書き残している。ちなみに以前病院へ行ったこともあるが、常人より美しい内臓と褒められただけで終わってしまった。もはやこの痛みは私にしか観測することが出来ない悪魔のようなものである。悪魔ならば悪魔らしく、腹の痛みと引き換えに何かしら素晴らしい稀有な才能でも授けてくれればいいのに、と思う事すらある。


 痛みの範囲から察するに、悪魔の大きさは5センチほどである。初めは肋骨付近に棲み着いていたが、最近は左の下腹部にもいるようだ。こちらも何度か病院へ行った気もするが、やはり悪魔か何かであるようだ。明確な病名はない。ずきずき、でもきりきり、でもない痛みである。擬音では表しづらい。ぐにゅう、や、めりめり、に伴う痛みに近いものだが、痛みそのものがぐにゅめりしているわけではない。


 独学で調べようとしても不安を煽るばかりの大病の可能性を示唆されるばかり。何がしかの病気であると検討をつけ病院を渡り歩いたが、レントゲンでもMRIでも影や形がわからなかった。もちろん病気でないならそれに越した事はないのだが、病名がついた上で治療が可能である方が、悪魔に翻弄されるよりも気が楽なのだ。


 オチなどはない。私の身体ではオチていないからだ。オチがあればこの話のタイトルもきちんと病名と結果を書いていただろうし、そもそもこのような形で発表していない。今日はとにかくお腹が痛くて眠くてダルいからヤケクソになってこれを書いたのだ。ほとんど日記である。クソ。悪魔がいるなら文字を書く才能が欲しい。

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