ともこちゃん

「かもかもしれない」

「は?」

ともこちゃんの突然のダジャレに対し、反射的に飛び出た音が面白くて笑ってしまった。決してダジャレが面白かったわけじゃない。

「鴨、かもしれない」

「面白かないよ!」

「かもかも?」

そんな、知能の下がる夏のコンビニ。他のホットフードより割高に思える鴨串をもりもり食べながらともこちゃんはカップ酒をぐいっと呑んだ。

「サイコーの贅沢な気がするね」

「うそぉ、コンビニ飲みが?」

「コンビニでさ、お財布のこと考えずに好きなものを好きなだけ買うの。たまにやるけど、楽しいよね」

庶民的にも程がある話だと思う割に、鴨串を買うことに躊躇して、1つ80円のコロッケを買ったという敗北感がじんわりと訪れる。

「ちょっと、追加で買ってくる」

手に持っていた缶チューハイを預けるとともこちゃんは人の酒を図々しく一口呑んだ。


「お高いアイス買ったし」

「もうデザート?」

「ツマミだし」

ぱこ、とプラ製の蓋を開ける。これだけでメンコのように集める人もいるそうな。缶チューハイを取り戻しながらアイスを一口食べると、当たり前のようにともこちゃんが口を開けて待機している。

「もらう気満々じゃん」

「くれるかなって」

「あげるけど」

ひと舐め程度スプーンで削り出し、一瞬考えてから、少し大きめに掬い直したアイスにはバニラビーンズが自慢げに混じっている。ともこちゃんの目の前に出すと、こんなにいいのぉ、と目を輝かせてから食べた。

「うま」

「よかったね」

バニラの香りが鼻に届く。このほんの少しの、私の好意はともこちゃんに届いているのだろうか。


 二人仲良く無職になったのは3ヶ月ほど前。今年の4月の事だった。どうにか生きていく程度の蓄えと技術があった私たちは二人で暮らしている。この生活が長く続けられるとは思っていない。でも、一生続けばいいのにな。なんてことを考えながらスプーンを突き立てた。ほとんど熱帯夜の今晩は、アイスが溶けるのも早い。


 ともこちゃんはどう思っているのだろう。時々不安になる事がある。彼女は現実主義だ。こののんびりとした時の流れの中でも、ずんずんとどこかへ進んでいる。新しい事に飛びついて、モノにして、また新しい事を始めて行くバイタリティにいつも嫉妬していたが、真似できる訳もない。きっと今の生活も、変わる時が来たらとっととどこかへ行ってしまうのだろう。そして私は、ともこちゃんを引き止めることも出来ずに、聞き分けの良い顔で見送るのだろうな。むしゃくしゃした気分になった私は、アイスと一緒に買って来た強めのチューハイをかしゅ、と開け、一気に流し込んだ。

「ゆっくり飲まないとだめだよ」

「だね」

おろおろするともこちゃんは可愛い。半分ほど飲み干してから、チューハイをアイスに注ぐ。

「クリームソーダ」

「えっ!ずるい!」

「買っといでよ、おいしいよ」

勢いよく頷いたともこちゃんに、持ってて、と零さん勢いで押しつけられたワンカップ。一口飲んだら、喉が燃えるようだった。

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