第35話 受け継がれるモノ

 顔の前にかざした自身の掌すら見えない程の闇。




 暗くて、少し・・・・・・寒い。




 吸い込まれるような漆黒の中に佇んでいると、自分という存在すら曖昧に感じられてくる。




 どうして自分はここにいるのだろう? 記憶をたどってみるが、そこで自分には記憶と呼べるようなものを何一つもっていない事に気がついた。






(・・・ボクは・・・・・・誰だ?)






 考えても考えても答えが出てこない。記憶が全く無いという事実に、その場で発狂してしまいそうになる。




 しかしやることもないこんな暗闇の中、他にやることもないので、気がつくとまた思考の渦に巻き込まれている自分がいた。




 ぐるぐる


 ぐるぐる




 思考が空回り。




 考えれば考えるほど絡め取られる思考の迷宮に捕らわれた。




 思わずその場でしゃがみ込み、叫び声を上げる。




 しかしその叫びすら、貪欲な闇に吸い込まれて、自身の鼓膜には届かなかった。




 肉体の実感が無い。もしかして、すでに自分は死んでいるのだろうか? ならばこの状況も納得がいく。




 思考が上手く纏まらないのも、目が見えない事も、耳が聞こえない事も、すでにその肉体が滅んでいるのだとしたら仕方の無いことだ。




 記憶が無いのも、記憶を書き留める頭がすでに無いからだろう。




(しかし、脳みそが無いのになぜ思考ができるのだろう?)




 わからない。確かめる術もない。




 もしかしたら、思考というものに、もともと脳みそなんて必要ないのかもしれない。




(・・・・・・自分が死んでいる事がわかったとして、それでボクは何をしたら良いのだろう?)




 一切の刺激が無いこの場所では、何もすることが無く、何をしていいのか検討もつかなかった。




















 死後の世界というものはこんなにも残酷なものなのか。




 何も無い。




 光も、音も、痛みも・・・・・・。




 きっと時の流れでさえも。




 ああ、苦しい。




 寒い。




 寂しい・・・・・・。




 いっそ狂ってしまえば楽になれる。




 いや、もうすでに狂っているのだろうか?




 わからない。


 わからない。




 そも、自分一人しか存在しないこの空間で、正常と狂気の境など判断できるのだろうか?




 そんな、意味もないような事を永遠と考えている。




 ああ




 ああ




 ああぁ・・・・・・・・・。






 誰か






 誰か
















 誰・・・


          も   ?

































































――― ほう、まだ意識があったか。存外、強靱な精神をしている
















 声が












 聞こえた・・・・・・。

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