第34話 刃と拳
(・・・おかしい、視界は潰したはず・・・・・・何故まだ戦える?)
闇色の男は訝しんだ。
目の前の緋色の鬼は、確実に両目が潰れている。視界が塞がれたこの状況で、何故か男の攻撃が回避されはじめているのだ。
攻撃が当たらないという事実に、男はわずかに苛立ちながら刃を振るう。高速で打ち込まれる剣撃の嵐。しかし致命傷には至らない。すべては躱しきれないまでも、その刃は皮膚を裂くにとどまっていた。
男は苛立ち叫ぶ。
「ふざけるな!! 視界を奪われて何故先程より動きが良くなる!? そんな馬鹿げた事があってなるものか!」
怒りの声をあげながら、男は全体重を込めた渾身の一撃を繰り出す。
真っ直ぐに刃を前に押し出した、シンプルな突きの攻撃。必殺の威力を秘めたその一撃は、しかし怒りのため大ぶりになっており、回避するのは容易だった。
漆黒の刃を躱し、一気に距離を詰める鬼。すっと前に伸ばした巨大な右手で、闇色の男の頭をむんずと掴んだ。
「・・・・・・やっと捕まえた」
そしてゆっくりと開かれる両目。
先程切り裂かれた筈のその両目はすでに再生しており、ギョロリと動いた目玉が男を視界に捉えた。
鬼の怪力ならば、人の頭程度握りつぶす事は可能だ。これで勝負ありだと男の頭を捉えた手に力を込め・・・・・・そこで、男が嗤っていることに気がついた。
次の瞬間、腹に激痛が走る。
視線を下げると、男が纏っていた闇色のオーラが質量を持って、鬼の腹を突き破っているのが見えた。
「ふふ・・・勝ったと思ったか? 甘いな東の地の化け物よ」
男を覆うオーラがゆらりと揺らぐ。
再びの激痛。
槍のように変形した、質量を持った闇色のオーラが鬼の体に穴を穿つ。口から大量に吹き出る鮮血。勝ちを確信した闇色の男。しかし一つだけ誤算があった。
穴だらけになりながら、死の縁のギリギリの所でそれでも鬼は、男の顔を掴んだ手は離さなかった。
彼の脳裏に浮かぶのは、目の前で惨殺された猫族の友の姿・・・・・・。
(どうせ死ぬのなら、目の前のコイツも道連れだ・・・)
ギリギリと手に最後の力を込める。男は鬱陶しそうに手にした漆黒の刃で鬼の腹を斬り付けた。凄まじい切れ味の斬撃は、分厚い鬼の皮膚を容易に切り裂いた。
それが致命傷である事は鬼自身にも分かっていた。だが、それが何の問題になるというのだろう。すでに先程、死ぬ覚悟など済ませている。
ならばやることは変わらない。
鬼は最後の力を振り絞り・・・・・・。
男の頭蓋を砕き割った。
◇
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