第33話 刃と拳
夜の帳が下りた静かな森の深く。草木も眠る深夜の刻に、2体の人外が互いの命を削り合っていた。
夜の闇よりも濃い漆黒の刃が閃く。刃を振るうは闇色を纏った男。
光を一切透過しない黒の刀身が、相手の生き血を啜らんと躍りかかる。迎え撃つは深紅の肌をした一匹の ”鬼”。
野性の獣よりさらに分厚いゴム質の皮膚は、漆黒の刃による一撃をはじき返してしまう。
攻撃後の隙だらけな闇色の男に、鬼は反撃の拳を振るう。ただ適当に振るっただけの、型も何もない素人の拳。しかし人ならざる膂力で振るわれたその一撃は、男に回避をする隙を与えない。
子供の頭ほどもある巨大な拳骨が、攻撃後の隙だらけな男の腹を抉る。ブチブチと何かが千切れる感触が拳に伝わってくる。
普通ならコレで勝負ありだろう。
だが、この闘いは何に置いても普通のモノなんてありはしなかった。
カッと目を見ひらいた闇色の男。口からダラダラと血を吐き出しながら、手にした刀を逆手に持ち、鬼の右目に闇色の刃を突き立てる。
絶叫。
よろよろと後ずさる鬼。スタリと体勢を立て直した男は、コキリと一つ首をならすとゆっくりと距離を詰めてきた。
右目を押さえながら視界の悪い状況で、ブンと腕を振るう鬼。尋常な相手ならいざ知らず、そんな適当に振るわれた攻撃が当たる相手では無く、闇色の男は最小限の動きで回避をすると、返しの刃で今度は左目を切り裂く。
吹き出す鮮血、そして完全に奪われた視界。鬼は一人暗闇の中、次からの攻撃を無防備に受けることになる。
胸が斬られ、背が斬られ、腕が斬られる。
もてあそばれている。一息に首を裂けば勝負はついているだろう。視界を奪われ、反撃の出来ない相手をジワジワとなぶり殺すつもりなのだ。
このままではマズい。
しかし鬼の心は酷く落ちついていた。こんな絶体絶命な状況なのに、不思議とこの感覚に慣れ親しんでいるかのような、そんな気がしたのだ。
(・・・・・・ああ、知っている。この感覚、この絶望を・・・)
体の奥底から呼び起こされる、鬼としての種の本能。飽くなき闘争を繰り返してきた血塗られた歴史の記憶。
感覚が研ぎ澄まされる。
そして聞こえた、刃が風を切る音。身を捻り回避を試みる。
斬撃は肌に触れていない。どうやら回避しきれたようだ。
(戦える・・・まだ、戦える!)
鬼は、うっすらと微笑んだのだった。
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