第30話 初めての旅
「へっへっへ・・・もう逃げられないぜぇお嬢ちゃん」
下卑た笑い声を上げながら、路地裏に追い詰められた女性にジリジリと詰めよる暴漢たち。その数は五人。みな体格の良い屈強な男達だった。
「い、嫌・・・」
追い詰められたは、涙を目に浮かべてその場にへなへなと座りこんでしまう。恐怖のあまり腰が抜けてしまったようだ。
まさに絶体絶命の場面。
次の瞬間、男達の背後から駆け寄ってきた人影が、助走をつけた跳び蹴りで背の高いはげ頭の男の後頭部を蹴り飛ばし、一撃で失神させる。
「女性の敵は成敗です!!」
素早い奇襲攻撃で暴漢の一人を気絶させたアリシアは、素早く周囲を観察する。
あっけに取られた様子の暴漢達・・・残りは四人。突然の出来事に未だに動けずにいる・・・素人だ。しかし油断はしない。相手は体格の良い男が4名。相手を殺害するのなら話は別だが、事情がわからない以上むやみに殺しを行うほどアリシアは血気盛んではない。
素手による制圧・・・体格で自身が劣る以上、相手に体勢を整わせてはならない。
アリシアは隣にいた男に強烈な足払いを仕掛ける。派手に転げた男を飛び越えて別の男の顎を蹴り上げた。
顎を蹴り上げられた男が、軽い脳震盪を起こしてその場で崩れ落ちるのを確認すると、アリシアは素早く振り返った。
(クソッ・・・流石に四人を素手で制圧するのは無理がある・・・か)
流石に残りの二人は戦闘態勢を整えていた。
突如襲ってきたアリシアを睨み付けて、腰に下げていた武器を抜き、構える。湾曲した肉厚の刃、所謂山賊刀を構えた男と、大ぶりのナイフを構えた男の二人・・・武器を持った複数名を相手に素手で戦うのは無謀だ。
(・・・無駄に傷つけたくはなかったのですが・・・仕方がないですね)
アリシアが背負っていた両手剣の柄に手を掛けたその瞬間、武器を構えた二人の男達がほとんど同時に足を押さえてその場にうずくまった。
よく見ると、足から出血しているようだ。
「おっと動かない方がいいよ二人とも。状況がわからないから必要以上に傷つけはしないけど・・・これ以上抵抗するようなら間違って君たちを殺してしまうかもしれないからね」
男達の背後から音も無く現れた騎士ローズ。血に濡れたレイピアの刃を、威嚇するように男達に突きつけている。
「・・・わかった、降参だ。命だけは助けてくれ」
「いいだろう。じゃあ倒れているそこの二人をかついでどこかに消えてくれるかな? そんなに深くは斬っていない、歩くのに支障は無いだろう?」
ローズの言葉に、忌々しげに頷いた男達は、倒れている二人をそれぞれ担いで逃げるように消えていった。
「・・・ありがとうございますミスター。助けられてしまいましたね」
「そんなことはないさ。レディ一人でもあんな輩は問題にならないだろうしね。ただ穏便にすませるために少々手助けをしただけさ」
ローズはそう言っていたが、実際の所、アリシア一人であの二人を相手にするのは少しやっかいだっただろう。
アリシアは手加減が苦手だ。
アリシアの剣術は、両手剣の重量と威力で相手を粉砕するもの・・・非殺での制圧戦は、彼女の最も不得意な分野であった。
「さて、大丈夫かいお嬢さん。横から勝手にしゃしゃり出てしまったが・・・事情を聞かせてくれるかな?」
ローズの優しい言葉に、女性はおずおずと話し出した。
「・・・ありがとうございます。親切な方々・・・私はシンディ・・・・・・シンディ・グランツと申します」
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