第28話 初めての旅




「・・・向こうに見えるのが帝国さ。レディは帝国に来たのは初めて?」




 ローズの言葉にコクリと頷くアリシア。彼が指さす方向に目をこらす。荘厳な雰囲気を醸し出している祖国のソレとは違い、帝国の城門はひたすらに簡素で無機質なものだった。装飾の類いは全くといってほど見当たらず、むしろ威圧感すら感じるほどだ。




「フスティシアとはまた趣が違うだろう? 先代の皇帝の頃はこうでは無かったんだけどね。現女帝の代になってから無駄が徹底的に排除されたようだよ」




「ようだ・・・という事は、ミスター、アナタが帝国に行ったことがあるのは先代皇帝の時代ですか?」


「そうだね、だから残念な事に今の帝国についてはあまり詳しくないんだ」




 パチリとウィンクをするローズ。




 そして二人は歩き出す。




 目指すは帝国。


 未知の領域へ。


















 帝国の秘書官、パウル・シルトクルーテは、そのツルリとはげ上がった頭に浮かぶ、玉のような汗をハンカチで拭った。




 緊張した様子で目の前にある質素な扉をノックする。




 返答は無い。




 当然だ。この部屋の主は、パウルのノックに反応するような暇なんて無いのだから。先ほどのノックは今から彼が部屋に入る事を知らせる為の意味でしか無い。




 パウルはゆっくりと扉を開いた。部屋の奥には机の上で執務をしている女帝の姿。深々とお辞儀をしたパウルは、その姿勢のまま口を開く。




「・・・陛下、外壁の見張りの者から報告が入りました。 ”彼女”がまもなくやってくるようです」




 その言葉に、女帝はピタリと書類を捲る手を止めて、パウルが入室してから初めて視線を上げた。




「・・・・・・ほう? そうかそうか、それは何よりじゃ」




 金色の瞳を煌めかせ、ニヤリとその口角を上げる。




「我が姪を使え。ヤツは王族の中でもそれなりに有能な娘だからの、上手くやってくれるじゃろう・・・・・・しくじるなよ? パウル」




 ドスを効かせたその台詞に、パウルはさらに深く頭を下げる。




 失敗など出来ようはずが無い。




 帝国にとって、”彼女”がどういう意味を持っているのかを、パウルはよく知っている。だれよりもこの国を愛している彼だからこそ、女帝はこの大任を任せたのだ。




 ドタドタと慌てた様子で退室したパウルの後ろ姿を見送って、女帝はゆっくりとその視線を背後に向ける。




 壁に飾られた帝国の国旗。




 先代より奪い取った、彼女の ”力” の証。




「”人材” ”技術” ”資源” ・・・妾は全てを手に入れる。何故なら妾こそがこの世界の頂点に相応しいのだから」














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