第27話 初めての旅
空気が酷く乾燥している。
口の中にはジャリジャリと砂がまとわりつき、不快になったアリシアは品が無いとは思いつつも、同行者をチラリと見て、今更遠慮するのも馬鹿らしくなり、口の中の砂をツバと供に地面に吐き出した。
その様子を横目でチラリと見たローズは、静かに笑う。
「いやいやレディ、君は逞しいなあ」
「幻滅しましたか? ミスター。初めての旅、こんな砂漠地帯で女性らしさを気にする余裕は私にはないものですから」
少しトゲのある返答をするアリシアに、ロースはいよいよ愉快だとばかりに大笑いをするのだった。
「ハハハッ・・・いや、すまないねレディ。別にそんなつもりで言ったんじゃ無いんだ。君は環境適応能力に優れていると褒めたつもりだったのだが・・・少し自分の言い方が悪かったね、失敬」
堪えられないとばかりに笑い続けるローズに、アリシアは鼻を鳴らす。しかしこの騎士も丸くなったものだ。
かつての騎士ローズ・テンタツォーネはどこか油断ならないような鋭い雰囲気を纏っていた。隙を見せたら一呑みにされるような大蛇のプレッシャー・・・誰にも気を許さない孤高の騎士、それが彼だったのだ。
しかしアリシアには解せなかった。何故彼は急にこんなにも丸くなったのだろう? 犯罪者のダンプ・デポトワール・オルドルに不意打ちで爆破され、緋色の死神との再戦の為に国を飛び出した。
行動だけで見れば丸くなるより、より鋭く研ぎ澄まされていてもおかしくはない境遇だ。しかし今の彼のこの機嫌の良さは何なのだろうか。
(・・・考えていても答えがでるような類いのものではありませんね。こういった疑問は直接聞くに限ります)
もとよりアリシアは対人関係において気を遣うタイプでもない。相手を理解するためならある程度は踏み込んだ質問をすることもためらわなかった。
「ミスター・ローズ。アナタは国にいたときよりも今の方が生き生きとしているように見える・・・何か心情の変化でもありましたか?」
「そうかな・・・・・・うん、そうかもね。確かに自分は今の方が生き生きとしている。というより国に居た頃は、毎日退屈で退屈で死んでしまいそうだったんだ・・・ずっとイライラしていたんだよ」
「退屈?」
奇妙な話しだった。彼は最強の騎士アルフレートの右腕として、他の騎士達よりも忙しく働いていた筈・・・退屈なんて全く予想外の言葉だった。
「そう、退屈さ・・・自分がアルフレート様の下につき、騎士となったのは、その方がよりスリリングな戦いが楽しめると思ったからだ。確かにアルフレート様は自分に危険な仕事をたくさん持ってきてくれた・・・でもね、足りないんだ」
そしてローズはニヤリと凶悪な笑みを浮かべる。
「自分が欲しているのは死と生の狭間にある究極の戦い・・・・・・だからこそ、今の自分は解放されている。緋色の死神という最高の敵と戦う事ができるのだからね、楽しくて嬉しくて仕方がないんだ」
無邪気にすら見えるその満面の笑みを見て、アリシアは全てを悟った。
丸くなったなんてとんでもない。鋭く研ぎ澄まされたその刃は、牙を向ける相手を静かに待っているのだ。
「さて、急ごうかレディ。この砂漠はあまり広くはない・・・急げば日中に抜けられるだろう。流石に今の装備で夜の砂漠は遠慮したいからね」
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