お揃い

 二人が戻ってくるときにはその手に予想通りいくつもの服が収まっていた。


「よし、それじゃあ見てみましょう!!」

「はい!」

「…………」


 ボクは特に反論もせずに受け入れた。

 最初から諦めているだけだけど。

 あとはこの二人なら、さすがにこれは不味いというレベルのものは持ってこないだろうという信頼だ。

 それからしばらく何度も着替えては確認を繰り返すことになった。

 ワンピースの時もあればパンツスタイルもあるし、ロングスカートを上手くつかったコーデなどもある。


「うぅん……こっちのがいいかも?」

「こっちはどうでしょう?」

「この色は合うかしら?」

「ノアさん。これはどう?」


 たまに感想を求められるけど、どうしても自分の中での表現力不足か「いいと思う」とか「少し眩しいかも」とかしか返せないのがだんだん辛くなってきた。

 あと、このふたりが何来ても基本的に「かわいい。でも、こっちのほうがいいかしら」といったかと思えば「こっちだと綺麗な感じになるわね」とか言ってきて体もむず痒くなってくる。

 ボクの容姿ってそんななの?

 アミリアさんとか貴族のお嬢様が常連にいたり付き合いがある場でこんなに褒められるほどなのかわからない。

 少なくとも自分で見る分には、あの環境だと至って普通ぐらいなのかと思うんだけど……。

 そしてしばらくして疲れが出てきたところにボロをだしてしまった。


「そんなにボクって可愛いのかな……?」

「なにをおっしゃっていますの!!」

「へっ?」


 疲れて何気なく口からだしてしまった言葉だった。ボクにとってはそのくらいのものだったけど、アミリアさんの反応がすごい強い。なにかいけないことを言ったのだろうか。


「ノアさん。わたくしは悲しいですわ」

「え、えっと……なにかした?」

「貴方はもっと色々なことに自信をもっていいのです。様々な判定の時も高成績に見えるそれに対しての反応が鈍かったですし、今回だって」


 ずいずいと寄ってこられて思わずうしろずさってしまう。

 そして壁に追い詰められたと思ったらアミリアさんの顔が至近距離に――やばい。ドキドキしてきた。近すぎない?

 少し動いたら額がぶつかりそうだけど。


「スタイルもかなり良いですし顔立ちもよい。泣きぼくろがありますがむしろ可愛さや他の人と違った特徴になっています。髪もとても綺麗な色なんですから。もっと自信を持ってください!!」

「う、うん。わかった。アミリアさん、わかったから」

「なんですか?」

「え、えっと――」


 やばいよ。目の前だよ。女子同士の友人の距離感ってこれが普通なの?

 そうだとしたら、ボクは女子を全然理解していなかった。

 それにしてもアミリアさんすごい目が綺麗だな。まつげながいかも。

 もう少し大人になったら美人さんになりそうだな。


「とにかく、ノアさんはもっと自信をもってください! さあ、次はこれを着てください! わたくしからは最後で一番ノアさんに着てみてほしかったものですわ!」


 そう言われて渡された服に着替える。着替えながらどうにか呼吸を整えて部屋に戻る。

 少し濃い目の青のワンピースだったけど。


「ど、どうかな?」

「似合ってますわ! わたくし的にはノアさんはワンピースが似合うと思っていましたの!」

「…………」


 ファルさんは無言でボクを見ている。なんだろう。


「ねえ、アミリアちゃんこれ……あなたがずっと気に入っているやつの雛形につかったやつよね?」

「ば、ばれました?」

「アタシが作ってるんだからそりゃあばれるわよ。でも、まあいいんじゃない。というか、それならノアちゃんのも合わせようかしら?」

「いいんですの!? ノアさんはどうですか?」

「へ? え、えっと……おまかせします」


 何がどういう事がついていけなかった。

 ワンピースが似合うと思われていたのは置いておいて、雛形につかった?

 オーダーメイドで作る服にしても、何かを元にしている場合はたしかにあるのか。

 そう考えると……あれ?


「ちょ、ちょっとまって。アミリアさんそれって」

「色違いのおそろいですわ!」

「……そ、それは、その、大丈夫なの?」

「いやですか?」


 すごい悲しそうな目で見られてしまった。


「……いいんだけど。アミリアさんの家的にってこと」

「それは大丈夫ですわ。自分のことについては自分である程度決めていいと言われていますから。それにご友人とおそろいというのは、やる方は多いと聞いたのですが」

「まあ多いかもね」


 お付き合いしている人も多いイメージはあるから正しいかわからないけど。

 最終的にワンピースについては、この流れを止めるタイミングもなく購入というより作ってもらうことになった。

 そして窓の外を見ると日が落ちはじめてオレンジ色になっていた。


「ふふっ、じゃあまたきてね」

「ありがとうございます」

「また来ますわ!」


 結局、1日中着替えたりしっぱなしだった気がする。

 でも、疲れはしたけど苦痛ではなかったかな。

 かわいい……かわいいか……。

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