仕草
風呂の後、部屋に戻ってすぐに寝て翌日の朝になった。
ひとまず体の不調を引きずることはなく起きることもできた。
ただ、なにか違和感を感じる。
自分の中での違和感だ。でも、違和感は感じるけど何をしていても、何を見ていてもいつもどおりだ。
特に寝癖があるわけでも、顔色が悪いわけでもない。
「うーん……」
もやもやとするもののそのまま朝食を食べに食堂に行く。
「ノアさん。おはようございます!」
「おはようございます。アミリアさん」
食堂に辿り着くと珍しく時間があった。
というのも普段はアミリアさんは朝から軽く運動に外に出て、早い時間から学園に行っていることが多い。
何をしているかは聞いたことないけど、何でそんな早くいくのか聞くと『学園の中を見て回ったり、他のクラスの方々と交流していますわ!』と返された。
まあ、たしかに授業以外だと朝か寮にいる時ぐらいしかないか。
ちなみに挨拶を丁寧にするのは、前に簡略的に「おはよう」と返したら「朝の挨拶はしっかりと丁寧にいたしましょう!」と力説されたためである。さすがに式典とかかしこまった場は意識してたけど普段からそういう意識を持つことも大切と思わされた瞬間だった。
まあ、他の子は普通におはようって言ってくること多いけど。
「…………」
「……アミリアさん?」
「なんでしょう?」
「ボクの顔になにかついてる?」
朝からいるのも珍しいけど、なぜかずっと見てくる。
もしかして、朝からの違和感は他の人からもわかるものだったらと思って聞いたがどうだろう。
「いえ、代わりありませんが……その」
「うん?」
「いえ、何でそんなに髪を触っているのかと」
「…………」
言われて思わず自分で確認した。
そして気がついた。違和感はあるけどほぼ無意識に指で髪をいじっていた。
そうか。違和感の正体は自分の行動だったのか。
スッキリ……しない。
理由はわかったけど、なんでボクは髪をいじっているんだ。
髪が伸びたからか。いや、今いじっている前髪というか横の髪は、元々男の頃から髪を整えるなんて余裕なかったから触れた状態だったから理由にならない。
そもそも、それなら今になって気がつくわけがないし、アミリアさんが違和感を感じるっていうことは、最初に出会ったときはそんな癖がなかった証明だ。
そうなると変化したのは昨日……昨日に何かが……。
「あの、ノアさん。顔真っ赤ですけど」
「ごめん、気にしないで」
「体調が悪いので?」
「いや、全然関係ない」
くそ、認めたくないけどひとつだけ思い当たる。
昨日髪を褒められて、自分が思っている以上に喜んでいたんだ。
女になった影響か男だった頃からはわからないけど、女になった影響だと思っておこう。
そうじゃないと、顔が赤くなるだけじゃ抑えきれない感情が生まれそうだ。
ボクってそんなにちょろかったのか。
いや、違う。多分、褒められ慣れてなかったのと女の体だし、多少はそういう影響もあるのが普通のはずだ。
むしろ意識して男であるために女っぽいことを避けてる部分もあるから、意識しなければ女に引っ張られてしまうんだよ。
絶対にそうだ……そうであってくれ。
「というか、アミリアさん。よく気がついたね」
「まあ、髪の色が水色ですので顔が赤くなるとものすごくわかりやすいですわ」
「いやそっちじゃなくて」
「ノアさんは元々、落ち着いているとは少し違って何か女性らしくない部分が見え隠れしていましたので。なんというか。女性が全員やるわけではありませんが、そういう仕草をしていると逆に違和感になっていますわ。淑女としてはそれが女性らしくなるべきだとは思いますが」
「……そうだね」
そうか。男であろうとするそれは外から見てもわかるのか。でも、今までは個性とかで納得してたけど、いざ女性らしい仕草がでると目立つと……。
「アミリアさん。もし、これから、同じようなことがあったら教えて」
「別に構いませんが……どうかしたのですか?」
「それは……」
「……わかりました。女性らしくなるための訓練ですわね!」
「へ? いや、ちがっ――」
「そういうことならば、このアミリア。全身全霊をもってお手伝いさせていただきますわ!」
「ちょっと、まっ」
「な~っはっはっは!!」
この高笑いを聞いたのは数日ぶりな気がする。しかし、ボクの中ではすでに確信があった。
アミリアさんがこの笑い方をしているときは、人の話を聞いていないと言うか行動することを決めたときだ。
普段の模擬戦を挑まれるとかのほうがまだいい。
でも、今回のそれはちょっとボク的にはまずいが。
授業が始まるまで抵抗してみたものの、結果をいえば無駄だった。
色々とやばくなってきた。ボクは今後男の意志を持ち続けられるのだろうか。
いや、持ち続けてみせる!
そう思わないとやっていられなかった。
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