魔の才

 闘技場に移動すると、他に2クラスほどいた。

 カオラ先生がいたので他のクラスに混じってしまうということはなかったけど、クラスメイトの顔はもう少ししっかりと覚えたりしたほうがよさそうだ。

 それと、朝の4人は未だに睨み合ってる。

 カオラ先生は全員が揃ったのを確認すると、入学試験の時にはなかった布の被った机から布を外す。中からは拳より少し大きめくらいの水晶が土台つきで設置されてる。


「よし、揃ったな。それじゃあ、まずはこれをやる。まあ学園に入るような子ならやったことはあると思うけど、一応説明しておくと。これは魔力の度合いを見る魔水晶だ」


 やったことなかったから説明してもらえて助かった。

 魔力については勉強させられたからわかる。

 魔力は個々によって得意な属性と質と量に差が出るらしい。

 この質というのは魔法の完成度に影響してくるため、魔法使いや魔剣士を目指す場合は質が重要になる。それと武器に魔力を付与する場合の効率にも影響がでるとか。

 そして量はそのまんま限界量をさす。魔力を使い切ると死ぬことはなくともかなりの疲労感に襲われることになるため、戦闘どころじゃないとか。


「それで、なんでこれを改めてやるかというと。冒険者を生業にしたり騎士として働く人間はともかく、一般の人たちは知らないし知ることもないことが多いが、この魔力というものは年齢によって不定期的に変化する場合があるからだ。属性が増えることも減ることもある。質と量についても訓練で磨くことはできるが先天的な部分の変化が影響を与える場合がある。ただ、不定期的といっても大体の時期は決まっていてその一回目は今の君たちの年齢だ」


 今の説明のことは知らなかった。でも、たしかに普段から魔力を使うことをしなければ属性も量も質も気になることはないから知らなくても仕方がないのか。


「そういうわけで、この学園にいる間は3ヶ月に一度調べることにしている。まあ変わらない人もいるから変化によって才能がどうとかいうことはないから楽な気持ちで行って欲しい。ということで、最初に調べたい人はいるか?」


 特に順番は決まっていないのか。やったことがないから一度は誰かがやるのを見たいと思っていたが、こういう場面で真っ先に手を挙げる人物に当てがある。


「わたくしが!」

「よし、それじゃあルージュから」

「はい!」


 アミリアさんはそう言って前にでて魔水晶に触れる。

 すると魔水晶の色が赤く変化して光り始める。その魔水晶の中はかなり靄がかっているような状態になった。


「ふむ。量はあるが質はそこそこってところか。属性は紛れもなく炎だな」

「変化はありませんわ!」

「そうか。よし、次」


 あんな風に結果がでるのか。ただ、結果の見方がよくわからない。

 アミリアさんが戻ってきたタイミングで小声で聞く。


「アミリアさん」

「なんですの?」

「ごめん。ボクはじめてなんだけど、あれってどうやって判断するの?」

「そうだったんですか? そうですわね。色が属性で、これはほとんど決まっているものなのですぐにわかりますわ。そして輝く強さが質を表していて、水晶の中の靄の濁りとでもいいましょうか。それが魔力の量を表していますわ」

「質と量が微妙に曖昧なような」

「まあなので実際のところ、先生の判断に任せるのが良いかと。先生は学園で色んな人の結果を知っているなら平均的な結果も知っているはずですから」

「そっか。じゃあそうしよう」


 他のクラスメイトも続いてやっていくと、たしかに靄と輝き方が全員違う。


「それじゃあ、最後はノア」

「は、はい」


 しかし、いざ自分のことを知るっていうのは緊張する。

 ボクはゆっくりと水晶に触れる。その瞬間だった。

 魔水晶が目の前で強く輝いて、ボクの視界を覆った。

 そして数秒後に視界がもとに戻る。魔水晶は元のままだった。おそらく反射的に手を離したんだろう。


「ノア……なんというかすごいな君は」


 先生はそういいながら手元で何かを記入している。


「え、えっと、結果がわからなかったんですが」

「属性は水だな。そして質はおそらく最高といっていいレベルだろう。だが、量はかなり少ない」

「…………そうでしたか」

「ただ、質がここまで尖っているなら。しっかり訓練すれば量は巻き返せるし、質がいいということは効率を重視できるレベルになれば量は必要ない。まあ努力次第でかなり伸びるぞ」

「は、はい」


 褒められているのかな。

 ボクさきほどいた場所に戻る。

 アミリアさんは何故か拳を握っていた。


「や、やりますわね」

「自分だと全然見えなかったんだけど」

「まあ、あれだけ目の前で輝かれては見えないでしょう。ですが、先生の言ったとおりだと思いますわ。かなり魔水晶は遠目だと澄んでいましたから」

「これは……喜んでいいのかな?」

「癖がありますが、才能としては誇っていいものだと思います」

「……じゃあ喜んでおこう」


 イマイチ自覚できなかったのは寂しいけど仕方ないか。

 ただ、少なくとも才能があるということはわかった……女になって学園に来てなかったら知らないまま過ごしていたと思うと複雑だけど。

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