謎の少女
夜になった。
夕食が済んだ後に時間を潰す。
風呂の時間はよほど遅くならなければ自由で、施設からもみてわかる通りかなり広いからよほどかぶらない限り余裕はある。
ただ、ボクは少なくとも寮に入ってから今日までの間、いつもかなり遅めにはいっている。
理由は簡単だ。女子の裸を見るのが申し訳ないのと落ち着かないから。
卒業すれば男に戻れるという契約を守るために始まった学園生活だけど。女学園だから欲が多すぎる。
いや、もちろん立ち場の関係とかもあるし、そもそも卒業どころか事件になるようなことをするわけにはいかないから、そこで何かをする気もなければする考えはないけど。
それはそれとして、精神的に落ち着くかどうかと、卒業後を考えるとこれに慣れてしまうのもよくないと思うわけだ。
合理的に考えたら一時的に慣れればいいはずだけど、男から女になった人間の話なんて聞いたことないから、いざ慣れてしまった時に男の心を最終的に取り戻せるか不安なのだ。
もう自分の体だけはしょうがないから諦めてる。あと、遅くにいったところで数人はいるから結果的に自分の体を見ることには耐性がついた。というよりもつけざるを得なかった。
他人の体を見てしまうよりはいいと自分に言い聞かせて。
そうやってどうにか乗り切っていたはずだったんだけど。
今日の夜遅くの時間のことだった。
周りの様子をうかがいつつ脱衣場で服を脱いで浴場に入った。
「……誰が考えたんだろう」
いつもどおりかけ湯をしてから体をそれ用の道具で洗ってから流す。
その作業中にふと思ってしまった。なにせ、洗う道具の中にある薬草を加工したもので泡立つから、それが一度水やお湯をかぶるだけだと完全には流れない。しかし、残ったままで浴槽に入るのもマナー違反だ。
綺麗なのは大切だけど、これは誰が考えたんだろう。それが不思議と気になってしまった。
まあ、実のところを言えば育ちが育ちからこの綺麗にする作業自体は面倒でも嫌いじゃないとは思っているんだけど。せめて、男のままだったらな……。
前までは小さなキズが耐えなかった腕が綺麗な白いものになってるのを改めて見て思う。
そして、それが終わってから風呂に浸かる。体を洗うだけで出てしまう子もいたりするらしいし、それはおかしことではないようだが。ボクは意外とこの時間が好きだ。
だが、今日は少し違った。
「…………」
「…………」
少なくともクラスは違うであろう女子が、そこそこ近いところに無言で入ってくる。
それ自体はおかしなことじゃないんだけど、めちゃくちゃこっち見てくる。
あんまり他の人の体見ないようにはしてたけど、この子はいつもこの時間だった気がするが、今までこんなことはなかったぞ。
でも、ここで出ていくのもなんか微妙だな。
ひとまず目を合わせずにいつもどおりぐらいの時間で出よう。
そう思っていたんだけど、何故か出るタイミングまで同じになってしまった。
そして脱衣場を出ていく時だった。
「また明日」
「……う、うん」
彼女はそれだけいって去っていった。
また明日風呂でってことなのかな。別に寮が一緒だから普段から話しかけてくれてもいいのに。
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