第3章 魔王城を目指す覚悟
69.友情たっぷりの誤解
宮廷魔術師の中で最高位の魔術師として、賢者の称号を授かったリアトリスは準備を進めていた。魔王城へ乗り込むのは確定だが、軍を率いてケンカを売る方法は避けよう。拐われた聖女の無事がわからないうちは、攻撃を控えるよう各国に働きかけた。
多少難色を示したものの、周辺国は聖女も賢者もいない。勇者すらセントランサス国から選んだ以上、逆らってまで魔王城に突撃される心配は少なかった。
「まず、魔族と話し合いの場を持つ」
「……そうだな。ティアの確認が先だ」
父母がリクニスの一族だったとしても、妹クナウティアの無事が不明では協力要請も出来ない。納得したセージは不本意だが同意した。
「ガウナ、騎士団から有志を数人選んでくれ」
「かしこまりました」
騎士団長は別の男だが、この城の守りとして置いていく。独身で体力があり、旅に出られる身軽な騎士が必要だった。妻子がある騎士は今回の編成から除外される。婚約者の場合は微妙なので、当事者の判断に任された。
ちなみにガウナは婚約者もなく、そこそこ腕の立つ騎士として同行を志望している。一度はセージに「使えない」認定されたが、必死で鍛える姿にセージが折れた。魔王と対峙して生きて帰れない可能性が高いのに、志願したいなら好きにさせる。リアトリスとしても、護衛として長く一緒に過ごした騎士の存在は、心強かった。
近衛騎士は貴族出身者が多い。王族や有力貴族の護衛が主な仕事なので、礼儀作法が身についた騎士が選ばれるのだ。逆に色の名を冠した3つの騎士団は、完全に実力主義だった。
前衛で剣技の赤、魔術師の青、後衛で支援の黒で表記される騎士団は、騎士服の襟と袖に色を飾る。所属部隊の区別が騎士服で分かるよう工夫されていた。各部隊から平均して、志願者が出てくれるのが理想だ。
「セージ殿は、魔王が話し合いに応じると思うか?」
「セージでいい。俺は試す価値があると考える。彼らが異世界の勇者召喚を阻むだけなら、ティアをその場で殺せばよかった。連れ去った理由があるはずだ」
妹の生死を淡々と語るが、セージの顔色は悪かった。家族と約束した妹が危険にさらされ、安否不明なのだから、不安は当然だ。ここ数日、彼が眠れていないことは報告を受けていた。目の下の隈も日に日に濃くなる。
話し合いを重ねるうちに、セージは敬語を使わなくなった。勇者なので不敬罪に問われることはないし、城を出れば立場は対等だ。聖女以外は王族でも平民でも、公平に扱う魔王討伐隊の不文律があった。
「少し……横になれ。私は騎士の選定に立ち会う」
リアトリスも、王太子を降りてから口調が変わった。硬さはあるものの砕けた話し方をする。セージが首を横に振るより早く、彼の目を手で覆った。ソファに横になるよう促し、乗り上げるようにして眠らせる。触れる人肌が良かったのか、目を覆ったのが功を奏したか。
もぞもぞしていたセージも諦めて深い息を吐き出す。久しぶりの眠りの腕に身を委ね、セージは声にならない動きで礼を言った。読み取ったリアトリスが口角をあげて微笑む。
友情たっぷりの光景は、廊下で覗き見した侍女達により歪められた。愛情に溢れた、男同士の恋愛と勘違いした彼女らは悲鳴を押し殺して走り去る。騎士の選定結果より早く、噂は城内を席巻した。
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