第10話 不思議な老人

「はぁ、はぁ、はぁ」

天才魔道錬金術師のケンヤ・ヨイは秘密の抜け道を只管ひたすら走る。


「何という事だ。帝国が誇る魔道ゴーレムが、あんなにあっさりと負けるなんて、信じられない。しかし一刻も早く帝国に報告しなければ、この度の戦況が大きく変わる可能性がある。」


ケンヤは独り言をぶつぶつ言いながら、通信の魔道具を懐から取り出し、起動しようとしたら、隣にいた老人がひょいと取り上げた。


「これで連絡するのかのう」


「そうだ。返せ」


ケンヤは1人で・・・抜け道を走って来た。


いつの間にか隣にいる老人を見る。


名前も知らず見た事もない老人だが、ケンヤに違和感は全く無い、その老人はそこにいることが当たり前の事、寧ろいない方がおかしいくらいの感覚。


その異常さを認識する事が出来ず、ケンヤは老人と会話を続ける。


「帝国に報告しないと大変な事になるんだ」


「大変な事にのう」


「そうだ。戦争で重要な事は情報。1匹のドラゴンが現れただけで戦況は一変する。あのドンギュー将軍が呼び出した勇者は、まさに戦況を一変する特異な存在と思われる」


「ふむふむ。そうじゃのう」


まるで老人は昔から仲間であるかの様に、ケンヤは何の疑いもなく、全幅の信頼を寄せていた。


「まあ、この魔道具は、儂が持っておこう」


老人は通信の魔道具を、着ている和服の懐に入れた。


「しょうが無いなぁ。」


この老人に任せておけば何の問題も無いだろう。そんな事を思ってしまう異常さ。その異常さを認識出来ず、魔道具を老人が預かっても、ケンヤは何の疑いも持たなかった。


「さて、謁見の間に戻るかのう」


「大丈夫なのかい?」


「大丈夫じゃよ、何の問題も無い。儂に任せておきなさい」


「分かった」


ケンヤと老人は、こうして謁見の間に引き返すのであった。


ケンヤはけして魅了されてる訳では無く、洗脳されてもいない。通常の状態なのだが、何故か老人の言う事は間違いないと思ってしまう。


この老人は、妖怪「ぬらりひょん」だ。


妖怪の総大将と言われる事も良く分かる。妖怪でさえ何の疑いもなく全幅の信頼を寄せてしまう、そんな存在。どの様な厳戒態勢の場所でも、警戒しているのが生き物であれば、「よお、こんにちは」と言って入っていけるから、暗殺だってお手の物。


ドラゴンや酒呑童子など、1体で戦況を一変する破壊の権化の様な存在よりも、寧ろぬらりひょんの方が恐ろしいかも知れない。


ひょいといつの間にか権力者の隣に現れて、その国を支配出来る可能性すらある。


そんなぬらりひょんに連れられて、ケンヤは謁見の間に引き返していた。


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【作者から一言】


書いてる内に、凄くヤバい存在になってしまったぬらりひょんです。


チート過ぎました。


このスキルがあれば、ぬらりひょん1人で簡単に世界征服できちゃいます。


ハルトも倒しようが無いだろうし、何か能力に制限を持たせないと、ダメだと思っているのでした。


例えば、ぬらりひょんのスキルは、側に居るときしか発動しないとか、自分の生命の危機がある場合は、キャンセルされるとか……、かな。

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