第50話 光のメサイヤ

「ふん、少しは知恵の回る奴がいるようだな。まあ、猿知恵だろうが」

 第九翼の総司令官シヴァが、第七翼の旗艦マスティマでつぶやいた。

 直後、マスティマのオペレーターがシヴァに告げる。

「外部回線にて呼び出しがあります。黒き艦隊の司令、キノエと名乗っています」

 クリスタルのように爪を光らせた細く長い指を立てる仕草で、シヴァは回線を開くように命じた。マスティマのメインスクリーンに初老の男が写る。


「お初にお目にかかります。私は黒き艦隊、艦隊司令キノエと申します。ほう、これはお美しい。さすが噂に違わぬ光の神、光速のシヴァですな」

 いかにもつまらないといった顔でシヴァが聞く。


「下手なお世辞はいい。おまえの猿知恵を教えてくれ」

 一瞬、驚いた表情を見せたキノエ、だがすぐにニヤリと笑った。

「さすがですね。私のことまで推測されていたのですかな?」

 シヴァはその青く深い瞳で、全てを見越しているかのような視線をキノエに送る。


「黒き艦隊の旗艦アガレス、白き艦隊の旗艦マスティマ、そして私のグリモア。この世界を滅ぼせそうな船が三隻が今、ここにある」


「そしてフレイヤ、黒き艦隊の総指令パルヒョン。ついでにミジンコ娘が、異次元”現代”へ飛んだ。この隙に、私をどうにかすれば、この艦と艦隊、光の十二翼の二翼と黒き艦隊が手に入る。つまり世界が自分の物になる……と考える奴が現れてもおかしくはない」


 黒き艦隊のナンバー2であるキノエが、自分の野望を表に出した。


「なるほど、そこまでおわかりなら、話はしごく簡単です。現在、我々の総司令官パルヒョンは意識が無い状態で、私が総司令官代行を務めております。パルヒョンは、あなた達との和平を希望しておりましたが、私には別の考えがあります。そうです、シヴァ、あなたの言う通り、こんなチャンスを逃がすわけにはいきません」

世界が私のものになるかもしれない、少しくらいはリスクを冒すべきでしょう? 今、三隻は、非常に近い位置にあり、主砲は使えません。これはあなたの策略でしたが、こちらにとっても好都合。シヴァ、あなただけこちらに来て頂けませんか? 無駄な流血は避けたいのです。最後には全て私の物になるわけですから」


 マスティマのメインスクリーンに、迫ってくる黒き艦隊が写る。


「おまえの艦隊は、三百万ほどか。黒き艦隊の総意というわけでは、ないらしいな」

 黒き艦隊の内、五千万以上の艦は、シヴァの後方に待機していた。キノエが笑った。

「そうですね、まあ、獲物は独り占めに限りますから。いくら旗艦とは言え、司令官を二人欠いた状態。しかも黒き艦隊の旗艦アガレスは、動かせません。実質、自分の艦ではないマスティマにいるあなただけなら、三百万隻もいればで十分でしょう?」

 シヴァが頷いた。

「ああ、わかった」

 キノエが狡猾な笑みを浮かべた。

 シヴァはメインスクリーンへと右手をキノエの方に延ばし、薄い笑いを浮かべる。

「わかった。かかってこい。私一人で相手をしよう」


 キノエは困惑した顔でシヴァを見る。


「一人で、三百万の艦隊と戦う? シヴァ、あなたの言うことが、私には理解できない。無駄な被害は出したくないのですよ。光の艦隊も私の物になるわけですから。あなたが光の艦隊を再編して戦う気なら、その時間は与えませんよ」


「すでに、全艦が攻撃射程範囲内。私の艦、ライドウもマスティマやアガレスに引けはとりません。全ては無駄なあがき。人はそれを徒労と呼ぶのですよ」。

 キノエの論じる、これから起こる戦いについて、聞いていたシヴァは退屈

そうだった。

「おまえごときに、艦隊は使わんと言っている。やられ役のおまえ如きにな。そんな事をすればフレイヤに笑われるだけだ」


 シヴァは表情を全く変えずに答えた。


「その余裕は、フレイヤと同様、光の鎧、バトルフォームでもお持ちなのかな? それなら凄い事ですが……まあ、あなたも光の獣なので油断はできません。ただ、艦隊相手に通用するかどうかは、はなはだ疑問ですがね」

 キノエの、勝負にはならない、その言葉を聞いてシヴァが立ちあがった。

「私が持っている物……さすがは猿知恵だ。少しは解っているようだ。いいだろう、本当の恐怖と幸福をおまえに与えてやろう」


 シヴァが両手を翼の様に広げると、身体に十二本の光のラインが接続された。自分の艦グリモアへ光速通信を飛ばす。

「グリモアオペレーターへ指示。シルバーノヴァを起動。指定座標へ光速転写を行え。十秒後、私を宇宙空間へテレポート。シルバーノヴァと融合を行う」

「了解しました。実行まで八秒、七、六、五、四、三、二、一」

 シヴァの身体は一瞬揺らめいたかと思うとテレポートを開始した。同時にシヴァの艦グリモアから光速で、巨大な獣が打ち出された。

 獣とシヴァの身体が重なり、徐々に姿を変えていく……かつて旧世界を滅ぼした、究極の化学兵器。光のメサイヤ。

 その内の一頭の獣、シルバーノヴァが、その十二翼を携え、光り輝く美しい姿をこの宇宙に発現させた。


「総司令官代行、戦闘準備完了しました」

 部下の言葉に苦笑いしながら、現行、代行で黒き艦隊総司令官となるキノエが指示を出す。

「ふん、代行か……まあいい。この戦いで私はこの宇宙の覇者になるのだから。重戦艦を三万単位で再編成。距離を一光年で展開しろ。分散陣形をとり、シヴァの高度兵器による被害を最小限に抑えるんだ」

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