第45話 モイラとシヴァ
前方には二千万の光の艦隊。後方には五千万の闇の艦隊。
二つの艦隊に挟まれ、絶対絶命の三千万のシヴァ艦隊。
「さあ、降伏なさい。自分の部下が無意味に死ぬのは、シヴァあなただから、特に嫌でしょう? 無駄死になんか、十二翼艦隊で一番のクールで、優秀な頭脳を持っているのだからね。さあ、全てを放棄して、あなただけ、こちらに来るのよ」
モイラは、第九翼の総司令官シヴァに無条件降伏を勧告した。
「私の事を良く知ってるみたいだな。ふん、そうだな。我が軍は降伏させようか」
シヴァがあっさりと頷いた。
「そう、それでいい。無駄な犠牲はあなたの戦いの指針に反するもの」
第七翼、旗艦マスティマのメインスクリーンを見た、モイラが満足そうだ。
「さて……おまえはこうやって光の艦隊を全てコレクションする気か?」
シヴァの問いに、モイラはクスっと笑う。
「ええ、そうよ。光の艦隊を全て集めて飾りたい。あなたたちはとても魅力的なんだもの。傲慢で、知的で、感情的で。そういうの私は大好き」
「まったく……新しい神は歪んでるな」
シヴァが瞳を閉じて言った。
「ふっ、好きにすればいいさ。ただし、私のコレクションは諦めてもらう!」
シヴァが叫ぶ。
「出力最大。目標、第七翼旗艦マスティマ! この艦をぶつけてやれ!」
第九翼の旗艦グリモアが、艦長の命を受けて全速で動き始めた。
モイラがシヴァを睨みつける。
「なあに? 知将、天才の光速のシヴァが玉砕覚悟の特攻? なんて見苦しい! ……私の思い通りにならないのなら……死になさい。今ここで!」
相打ちを狙ったシヴァに、勝算などないと言い切るモイラに、シヴァは答えた。
「そうかな? この距離では、お互いに主砲は使えない。モイラよ、一撃で私を仕留めないと、後悔することになるぞ」
シヴァの言うとおり、この距離で主砲を使っては自分たちも吹き飛んでしまう。
そして主砲以外では、光の艦隊の旗艦を短時間で行動不能にするのは難しかった。
「フフ、確かにそうね。でもね、もう一隻、あなたを破壊できる船を忘れているわよ」
モイラの含み笑いの後、第九翼の旗艦グリモアのオペレーターが、シヴァに緊急を伝える。
「緊急報告。左舷にジャンプを確認。艦名は黒き艦隊の旗艦アガレス。アガレスにエネルギー反応有り。エネルギー増大中です」
「なに!? 主砲を撃つ気か? シールド全開、全員対ショック対閃光防御、衝撃に備えろ! グリモアの進路を変更!」
防御と回避をシヴァが叫ぶ。
ジャンプで現れた黒き艦隊の旗艦アガレスに、漆黒のエネルギーが集まっていく。正面の装甲が開き、五つの竜頭が姿を見せる。
黒き艦隊総指令パルヒョンが、エーテルを無くし虚ろな目で命令する。
「目標、第九翼旗艦グリモア。主砲ブラックホールキャノン放て!」
五つの竜頭から、漆黒の弾が打ち出され、絡まるようにお互いが旋回しながら、一つの大きなブラックホールに成長していく。
巨大な漆黒の塊は、第九翼の旗艦グリモアに向かって突き進む。
「ク、回避出来ない……間に合わない……全員……」
シヴァの最後の命令を打ち消して、巨大な閃光が宇宙を照らした。
モイラの率いる、第七翼の旗艦マスティマのメインスクリーンが、ホワイトアウトした。
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