第44話 私の中の想い人

「そうね、でも今あなたが見ているフレイアは、影絵みたいなもの、エーテルが見せている、実態はあくまであなたよ。でもね、本当に久しぶりに見れた……私の愛しい人」

 愛莉は微かな笑顔を私の横に立つ、フレイヤに向けたあと、話を続けた。


「新しい神となったモイラは”混沌”を望んだの。表面の理性をはぎ取り、大脳旧皮質を目覚めせた。あの二人は、十二次元に一番近いこの場所で、影響を受けて、今、自分の本能のみで行動しているわ。この世界に終わりが近づいている」


 愛莉の声に気が付き、近づいてくる時輪と八束の二人が見えた。

 迫りくる二人を愛莉は冷静に見ている。


「私はモイラの策略にはまって、十二次元上の世界から、この現代に飛ばされてしまったけれど、そのおかげで、フレイヤと再び逢うことが出来た。そして……私の姉妹とも。これは運命なんだろうね、あなたが強く望んだから、その身にフレイヤを宿した」


 愛莉は剣を飲み込んでいる”Stars Logbook”を指差す。


「時の剣と力の化身の本、これで、時空は繋がったわ。まだ時空の穴は小さくて、エーテルが通れる程の大きさではないけれど、シヴァが間もなく穴を大きくしてくれる。その時に三人で飛び込みましょう」


 愛莉は何を言っているのだろう? まったく意味がわからない。飛び込む? それも私と愛莉が一緒に? それと物言わぬフレイアも?


「ねえ愛莉、私はフレイヤやあなと何か繋がりがあるの? ……教えて!」

 その時目前に近づいて来ていた、時輪と八束が、突然襲いかかって来た。

 私は愛莉に意味を問うチャンスを逃した。


「クク、そんな所に居たのか。二人とも。さあ、遊ぼうぜ!」

 時輪の手が愛莉に延びる。


 長い髪を空中になびかせて、愛莉は延ばされた時輪の腕をすばやく取って投げ打った。時輪の身体は大きな円を描くように、床に叩きつけられる。

 そのまま膝で首を押さえられ、時輪の動きは止まった。

 続けて襲いかかる八束の首筋には軽やかに手刀を入れる愛莉。

 後ろに吹っ飛ばされた八束は倒れて動かない。愛莉は静かに立ちあがる。


「大丈夫よ。気絶しているだけ。この世界では、私も普通の人間でしかない。光の神の力も制限されるわ。普段の力だったら、この子達は分子レベルで破壊されたかもしれないけれど。」


 分子レベルで破壊……って。別次元の訪問者とは、おちおちケンカもできないなと思った。

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