第46話 光速のシヴァ

 戦艦アガレスの主砲の影響で、シヴァをロストしたモイラがいら立つ。

「どうした? 状況を報告せよ!」

 フレイヤの体に入り込んだモイラが、司令官としてオペレーターに報告を求めた。

「……高出力のエネルギーが空間に波紋を起こしており、全てのスキャン機器が使用出来ません。映像、音声ともにロストしています」


 黒き艦隊の旗艦アガレスのブラックホールキャノン。

 その威力は、次空を揺らす程凄まじかった。


「グリモア……艦もろともに、シヴァが消滅。私のコレクションが台無しね」

 不機嫌になったモイラは、司令官の椅子に座り、足を組むと天井を見上げた。


 オープンされた装甲から星空が見える。


「欲しい物は手に入らないの? フレイヤ……シヴァ……ク」

 独りつぶやくと、椅子を立ち歩き出したモイラ。


 そこへオペレーターが緊急を伝える。

「緊急。強制テレポートを確認。場所はここ、マスティマコントロール室。何者かが転送されてきます」


 振り返ったモイラが報告を疑う。

「馬鹿な!? マスティマの多重のセキュリティを破って、テレポートするだと? そんなことが出来るのは……」


「そうだ。光の艦隊で最高の有機演算チップを持った、私、シヴァだけだ」

 モイラが振り返ると、白く輝く身体に、腰まである蒼く輝く髪、それより目を引く強い意志を湛えた青い瞳が、微動だにしないで見つめていた。


「シヴァ!?」

 第九翼の総司令官シヴァが、モイラが先ほどまで座っていた椅子の背に手を置いて立っていた。


「なぜ生きている? なぜここに居る!?」

 モイラの言葉にシヴァが微笑む。

「おまえの命令で、アガレスがブラックホールキャノンを使うことくらい計算していたよ。だから事前に準備していた。我が艦グリモアも主砲を使ったのさ、打ち出されたブラックホールに見合う質量のホワイトホールを打ち出し、アガレスのブラックホールを対消滅させた」


 艦橋の窓から対消滅された巨大な主砲のエネルギーの残像が、光として射しこんでくる。


 窓を指す長い細いシヴァの指。


「嘘だ、そんなことが出来るはずがない。そんな都合のいいように世界が動くものか!」

 モイラの言葉に、シヴァは自分の頭を指差した。

「おやおや、新しい神は随分と謙虚と見える。神の力とは、信じられない、まるで嘘のように事を成すんだよ。同じ神でも、確かに、おまえには出来ないだろう。私は一秒間で七兆八千億回のシュミレーションが出来る。射撃のタイミング、パワーの調整など二秒もかからん。最後のさじ加減だけは勘だがな」


 シヴァは、アガレスの打ち出したブラックホールに、グリモアから反属性のホワイトホールをぶつけることで力を完全に打ち消した。

 それは光の十二翼、全艦隊最高の計算力を持つシヴァだけが行える、まさに神業であった。


 シヴァの圧倒的な実力に、意識せずに呟くモイラ。

「光速のシヴァ……なんて凄くて……魅力的な者」

 絶対的な自信に溢れる青い瞳、シヴァの迫力、漂う気品に、荘厳な美しさに、モイラは思わず、その姿に見惚れていた。


「ふぅ……さすがね。やはり光の神は侮れないし、魅力的だわ。フレイヤに感じた強さと美しさを、シヴァ、あなたにも感じる。でもね、だからこそ残念だわ」


「一人で敵陣に乗り込んで来るなんてね。クク、この艦は私のコントロール下にある。そう、私はフレイヤなの。一言命じるだけで、あなたの身体は捕獲できる。傷などつけないよ。一生保存してあげる。殺してエーテルを抜き取った後にね」


 モイラがフレイヤ、旗艦マスティマの艦長として命じる。

「さあ、この侵入者を捉えよ。だだし無傷でだ」


 やれやれと、首を振ったシヴァがモイラの頭上を見ながら呟く。

「私は頼まれたから来たまでだ。この艦の司令官は実に面倒な頼みごとをしてくれる」


 シヴァが天空へ手を伸ばすと、モイラの頭上に銀色に輝く小さな星雲が現れ、光が霧のように発散した。


 人型に変化していく光の霧。銀色の長い髪に、シルバーグレイの瞳。


「馬鹿な、フレイヤが、マスティマに帰ってきたと言うのか!?」

 後ずさるモイラ。シヴァは自分のエーテルを高め、タイミングを計って、両手をいっぱいに天にあげ、持てるエーテル、自らの全ての力を解放する。


 銀色に輝くフレイヤの姿が一瞬大きく広がり、モイラを包み込んだ。

「……ク、この身体からエーテルを吸い出す気か……シヴァ!?」

 モイラのエーテルはフレイヤの体を離れ、そのまま光の霧に吸い込まれていく。

「……いや違う、シヴァだけではない……これは? 私を連れに来ただと? ……フレイヤそして……これは私!?」


 モイラの言葉と共に、モイラのエーテル体が、フレイアの身体から抜け、マスティマから消えた。

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