第41話 変異した世界

「ハァハァハァ……」

 私は走っていた。三人から逃れる為に。


 図書館は完全に居空間になってしまった。

 さっき入ってきた時に、本を読んでいた人も、歩き回る人も、受付にいた人たち、誰も見当たらない。

 色を無くし、モノクロになってしまったかのような図書館。

 気持ち悪い空気が渦巻いている。


 私がモイラからのメールを確認した時、様子がおかしかった愛莉だけでなく、八束や時輪までもが変貌した。


 三人は私を執拗に追ってくる。


「悠里絵、オレ以外の男がいいって? フフ、一度オレに抱かれてみろよ」

 八束が徐々に迫って来た。横に居る時輪も私の方を向いた。

「オレさ、愛莉の事が好きなのに、愛莉はおまえばかりを見ている。おまえを殺せば、オレを見てくれるかなぁ」


 ゾンビのように表情がなく両手を前に出しながら、迫ってくる二人。

「愛莉、助けて!」

 私の声に振り向いた愛莉の瞳は、真紅の怪しい光をたたえていた。

「愛莉!?」

 私は”Stars Logbook”を掴み走り出した。逃げる私を三人が追いかけてくる。


 いくつもの本棚の間を駆け抜け、やっと物陰に隠れたけれど、呼吸が苦しい。心臓の音が聞えてしまうかもしれない。


「どこだ? 悠里絵? すぐには殺さないからさ、こっちへ来い」

 時輪の声。

「最初は指、次は腕、その次は足……悠里絵は足が綺麗だからなぁ。喰うのが楽しみだ」

 八束の声もする。自然に身体が震えてきた。


(どうして? なぜこんな事に?)


 両腕で自分を抱きしめるかのようにして、震えを抑えながら、混乱した頭を左右に振る。

(考えてる余裕なんてない。とにかく逃げなくっちゃ……そうだ!)

 数歩先にある窓が目に止まった。

(ガラスを割って逃げる)


 私は椅子をつかむと、力いっぱい窓ガラスに叩きつけた。

 グシャっという音がして、壊れたのは椅子の方だった。


 傷すらつかなかった、ガラスの向こうには、灰色の霧が立ち込める。

 ハッキリと見えない外庭、それでも、壊れた椅子を何度も叩きつけた。

 恐怖が私の中いっぱいになる。

(助けて。誰か助けて。)


 ふいに後ろから肩を掴まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る