第40話 異世界への誘い

「愛莉、それ面白いのか?」

 黙々と本を読む愛莉を見て、八束が聞いた。

 それでも、しばらく無言で読み続けてから、愛莉は突然、本をパタリと閉じると八束に向かって首を振った。


「全然! 面白くなんかない。少し思い出しただけ。とりあえず、この本があった場所、銀髪の人が立っていた所へ行ってみるか」

 スッと席を立つ愛莉に、八束と時輪が続いた。


 すぐに私も立ち上がった。愛莉は男子二人を先に行かせると、私が横に来るのを待ってから歩き始めた。

 横に並んでみると、何だか気まずい。今までこんなことは無かったのに。

「悠里絵……聞いて」

 愛莉が囁くような小さな声でつぶやいた。

「あなたは仲間に裏切られて……そして、殺されたことはある?」

 何の話をしているのか分からず、ビックリして言葉の出ない私を見て、愛莉は笑った。

(”Stars Logbook”の中の話をしているのかな?)

 やっぱりいつもと違う愛莉の行動に、私はどう反応していいのか分からなくなっていた。


 すぐに図書館の一番奥、薄暗い”Stars Logbook”が置かれていた場所に着いた。

「ここよ。ここに本が置いてあって、ちょうどこの辺りに銀色の髪に人が立っていたの」


 私は銀髪の人が立っていた場所に立ち、時輪、八束、そして、いつもと様子が違う愛莉を順番に見つめながら説明した。


「ふーん。別に変った感じはしないけどなぁ」

 時輪が周りを見回してから、つぶやいた。

 辺りには全く人影はなく、静寂に包まれている。

「てか、こんな所に来る奴いるのかよ」

 八束が私を見ながら言った。


「悠里絵、だれかにストーカーされたか? そうじゃないと、ここの本に挟まれた栞なんて、普通は気づかないだろう?」

(誰かに見られた? ううん、そんな事はない。恥ずかしかったから、周りをよく見てから本を戻した)


「ないよ、たぶん。いや、まずないと思う」

「うーん」

 八束と時輪が考えながら唸り声をあげると、愛莉がおかしなことを言った。

「悠里絵、メール……。携帯をもう一回見てみて」

「携帯? なんで……?」

 私が不思議そうに聞くと、愛莉が強い口調で言った。

「悠里絵早く! サッサと携帯を見なさい!」

 大きな声に驚いて反射的に携帯を取りだした。

 マナーモードにしていたので気付かなかったけれど、着信ランプが点灯している。


 その時だ。奇妙な空気が広がり始めた。


 まるでこの場所だけ世界から、切り離されたような心もとない感じがする。

 空気そのものが孤独感でいっぱいだ。

 ただでさえ薄暗い部屋の明りまでもが薄くなってきた。


 他の三人が側にいるはずなのに、気配がどんどん薄くなって行くように思える。自分の心臓の音だけが大きくなった。


 ドクンドクン。まるで部屋中に響き渡っているかのように。


 私は携帯を開けてメールを見た。

「あなたは、死ぬわ」

 またもモイラからのメールだった。

 この前と同じ内容……違った、続きがある!

「あなたは、死ぬわ……、私が殺すもの」

 顔をあげた私のすぐ側で、さっきまで薄くなっていた三人の気配がした。


 三人はジッと私を見つめたかと思うと、ニヤリと笑った。

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