第39話 愛莉の異変
StarsLogBookのお話は佳境だけど、私のほうも大変なことに。
昨日の夜中に送られてきたメールの話を愛莉にする。
「あなたは、死ぬわ」とだけ書かれた、差出人にモイラの名前のメール。
そのメールに私はただただ、ショックを受けていた。
「ふーん、やっぱりきたか。ストーカーか変質者かな。これは時輪の出番ね」
愛莉は顔色も変えずにシラッと言ってのける。
「いや、それだけじゃなくて、図書館の小説と私がリンクしているのよ。とにかく変なの。不思議な事なのよ。愛莉、聞いてる?」
私の話が終わらないうちに愛莉が話を続ける。
「夢見る少女は置いておいて、その変質者の名前は何ていうの? どうせ本名じゃないだろうけど」
夢見る少女か。当たっているかもしれない。のんきな顔をしてしまったのだろうか。愛莉が呆れた顔で私の返事を待っている。
「名前ね、それが”モイラ”なの。ギリシア神話の運命の女神らしいんだけど……」
名前を聞いた瞬間、愛莉がピックっと反応した。
「モイラ。そう、そうなの……」
何となく愛莉の様子がおかしく見えた。
「何か思いあたる事があるの?」
愛莉は俯いたまま何かを考えている様子で、私の問いには答えなかった。
こんな愛莉の姿は今まで見た事がない気がする。
なぜだからわからないけれど、ゾクっとした。
突然、立ち上がった愛莉が大きな声で言った。
「八束と時輪を連れて四人で図書館へ行くよ! いいわね? 悠里絵!」
いつもの愛莉らしくない、何かに憑かれたような特別な圧力を持つ言葉に、私は黙って頷くことしかできなかった。
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「ふぅ、そろそろ来る頃ね。なんか緊張しちゃうわ」
図書館に着いて、腕時計で時間を確認してから、栞を挟んで”Star Logbook”を閉じた。愛莉の提案で、今日はストーカー対策をクラスメートに協力してもらう。
これから愛莉、時輪、八束と私で、図書館に集まり、私にメールを送ってきたモイラと名乗る人物について相談する。
誰も信じてくれないと思うけど、私は、時間と空間の感覚がおかしいような気がしていた。まるで小説の世界と現実がリンクしているようだった。
(そんなバカな……)
「どうしたのかな、みんな遅い……」
少し怯えた私の声に答える聞き覚えのある声。
「お待たせ、フレイヤ」
ビックリして振り返ると、時輪と八束を従えた愛莉が不思議な笑みを浮かべていた。
「よう! 来てやったぞ」
いつもの調子で八束が手を上げて挨拶をしてきた。
私は愛莉のさっき愛莉が口にした、名前が気になったけれど、ひとまず、来てくれた二人にお礼を言った。
「覚悟は出来ている。武士道とは死ぬことと見つけたり」
時輪は柄にもなく、武士道がどうだとか、語り始めている。
なんだか様子がおかしい愛莉は、”Stars Logbook”を見つめている。
「つまらないお話ね。こんなんで大騒ぎ? 悠里絵おかしいんじゃないの?」
(愛莉はこの本を知っている? そして”フレイヤ”って、私を呼んだ……。この小説の内容は全く話していないのに……。)
「まあ、でも暇つぶしには、いいかもな。悠里絵のためだし」
八束の言葉に、時輪と愛莉までが頷いている。
愛莉の様子が気になったけれど、私はこれまでの経緯を男子二人にも理解できるように、夢や物語と現実がリンクしていると思われる部分は省いて、モイラからメールが来た事だけを話した。
「うーん。結構危ない相手かもな。”あなたは死ぬ”なんてさ」
勇者然とした時輪が、両手を組みながら話す。
「それか、イタズラかもよ。だいたいさ、なんでメアドを公開しているわけ? こんな場所で?」
八束が不思議そうに言った。
「人には色々事情があるのよ」
私は苦しい言い訳をしながら愛莉の方に目をやると、愛莉はあれからずっと”Stars Logbook”を読み続けているようだった。
何かを思い出すように数秒おきにページをめくっている。なんという早さ。活字を見ると脳が過熱するって言っていた愛莉が?
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