第37話 青き瞳の魔女

「光の神シヴァから光速通信です。回線開きます」

 旗艦マスティマの”管理する者”がフレイヤに伝えた。

 フレイヤを殺して、自分が司令官になったモイラがメインスクリーンを見る。


「久しぶりだな、フレイヤ……ほう」

 挨拶をしたシヴァは一目で異変を察知した。

「しばらく見ない間に腑抜けてしまったのか?」

 メインスクリーンに麗しき女性の姿。

 ”光の艦隊”第九翼の総指令シヴァ。

 二人は同時期に光の獣として司令官として着任。

 同じ宇宙域の作戦にあたっていた。


「久しぶりだな。シヴァ」

 モイラがフレイヤのふりで挨拶するが、シヴァの美しい蒼い瞳が曇る。

「おまえは誰だ? フレイヤのエーテルをどこへやった?」

 怒りを含んだ声でシヴァが言った。


「うふふ、さすがシヴァね。私の名前はモイラ。”優れた者”、新しい神」

 モイラは自分のエーテルを、フレイヤの身体に移して、白き艦隊第七翼を率いていた。


「大人しく私の軍門に下りなさい。白き艦隊第九翼総司令シヴァ」

「フッ」一瞬のシヴァの笑顔とともに高速通信は切れた。

 フレイヤの身体を乗っ取ったモイラが、艦内の全ての”管理する者”へ指示する。

「全艦戦闘配備! シヴァが来るぞ。予想時間は二百四分後、前方の艦隊は……」

 モイラの指示が終わらないうちに、オペレーターが割り込んだ。

「我が軍の防衛線直前にエネルギー反応あり。ジャンプです」


「おお!」

 モイラが感嘆の声をあげる。


「既に準備をしていたのか。さすが”光速のシヴァ”光の艦隊で一番の速さを持つ者」

 モイラのオペレーターが続ける。

「敵二百五十六万隻。我が軍の前衛、シールド艦が攻撃を受けています」

 シヴァは足の遅い艦は捨て、高速艦隊を編成し、一気にモイラの軍の左舷を取っていた。


「我が軍の左舷が集中攻撃されています。このままでは三十五分後に、左舷防衛線を突破されます」

 モイラは数秒考えてから作戦指示を出した。

「右舷艦隊回頭。シヴァの艦隊を包囲するように進行。横と後ろに位置をとれ」

「了解しました。シヴァ艦隊の包囲陣を展開します」

「シヴァの艦隊は、こちらの五分の一程度。包囲してしまえば勝てる」


 スクリーンには渦巻き状にシヴァの艦隊を取り囲む、モイラの艦隊が映る。

「こんなものなの? 光速のシヴァ」

 緊急報告が入る。

「警告。我が軍本隊前方に、エネルギー反応あり。ジャンプです」

 モイラは艦隊の四方に、巡洋艦など小型の戦艦を広く隙間なく配置することで自軍の防衛力を高めていたが、シヴァを包囲するために中軍を動かし、そこに少しの隙間が生じさせてしまった。


「シヴァ軍、前方へジャンプ。その数八千艦」

 隙間といっても大艦隊がジャンプできるほどの大きさはなかった。

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