第36話 決着

「ひゅう、折角のデートだと言うのに、ラストまで体が持ちそうもないな」

 パルヒョンがひとりごちる。完全に機能別に分けられ、戦士として特化した光の神、フレイヤとパルヒョンではエーテルの純度が違っていた。


 光の筋を被弾する回数が増え、パルヒョンの戦闘力が急激に下がっていく。


「……もう、終わりか?」

 エーテルを最大まで高めたフレイヤが剣を構え直した。

「まだまだ」

 膝をつきながらもパルヒョンは言う。

 フレイヤは、パルヒョンを見つめながら静かに言った。


「もう、終わりにしよう。私は世界から色を無くしたくはない」

 パルヒョンに背を向け、歩き出そうとした。


「何を言っている?」

 膝をつき、顔を伏せた状態でパルヒョンはフレイヤに問う。

「終わりだと言ったのだ。お前はもう立つ事すらできないだろう」

 フレイヤはパルヒョンを振り返り、自分に言い聞かせるように言った。

「共に生きよう……」

 言いかけたフレイヤは、顔を上げたパルヒョンが、モイラの姿をしていることに気が付いた。


「馬鹿なおまえは……モイラ?」


 戦闘の終わりを宣言し、さらにモイラ出現に驚く、フレイヤの隙をついて、ソウルイーターが突かれた。


「勝ってって言ったじゃない? 司令官」

 パルヒョンの体からモイラの声が聞える。

「ほ、本当にモイラなのか?」

 苦しそうに、フレイヤがつぶやいた。

「戦いの真っ只中で、感情に流されるなんて最低ね、司令官」


 モイラはフレイヤを貫いているソウルイーターに、更に力を入れた。フレイヤの身体がソウルイーターを飲み込んでいく。

「うっ」

 フレイヤの口からは血が溢れ始めた。


「私は、あなたのおかげで進化したのよ。個性を持つ、感情のある、”優れた者”に。でも、あなたは私を消そうとした。だから、あなたを殺そうと決めた」


「私の中には、大好きなあなたを殺せないと言う、もう一人の私が居るわ。だから私は自分を二人に分割した。もう一人の私はどこに居るか? うふふ、彼女は他の世界へ飛んだわ。やりたい事があるって。これでやっとあなたを殺す事が出来る」


「でもね、今度はアイリが私を消そうするのよ。でもね、その時にはもう対策が済んでいたのよ。モイラとアイリの識別番号は入れ替え済みだったの」


 ハッとするフレイアの顔を見て、モイラは可笑しそうに笑った。

「そうよ。私を消そうとして、アイリは自分自信を、削除するコマンドを実行したのよ!」

 モイラは更にソウルイーターを押し込む。


「あなたは、私たちに感情を持たせて玩具のようにして、さぞ楽しかったでしょう? そのあげく、邪魔になったら、もう要らないって、即削除だもの、酷いわ。そんなところも好きだけど。アイリが勝手に消えたのはいいけど、そのおかげで私はマスティマから削除されたことになっているから、困っちゃったの。私がアイリの真似なんかしても、あなたはすぐに気が付いてしまうでしょ? それで仕方なく、闇の神のところへ行ったのよ。そしてこの馬鹿な男のフォームを起動させたわけ。あなたが勝つ事はわかっていたわ。その後にこの男の弱ったエーテルを乗っ取る事が出来るともね」


 壊れた玩具のように、早口で話し続けるモイラ。


「自分の玩具に殺されるのは、どんな気持ち? 私とアイリはあなたのために、通常の512倍の性能で働いたわ。辛いオーバークロックにも耐えたのよ」


「あなたは甘いわ。さっきだって、私の姿を見ても斬ってしまえばよかったのに、それで逆に刺されちゃうんだもの、実はバカなんじゃない?」


「でもね、そんなところも好きよ。あなたの矛盾した思想が私も欲しいの。大好きなあなたを殺せば、私は変われる。複雑な感情が私を変える」


「あなたを殺して、私はこの世界を生きる。あなたを殺したことを悲しみ、そして喜んで。永遠にね」


 モイラはソウルイーターを持つ両手に、全身の力を込め、闇の大剣はフレイヤを完全に貫いた。


 フレイヤの背中からも、腹部からも、血が噴き出す。全身から力が抜けたフレイヤの身体は、糸が切れた操り人形のように崩れ折れ、力なく揺らぐ手がモイラに触れた。モイラの手は、ソウルイーターを伝わり降りてくるフレイヤの血で染まる。


「あったかいなぁ」

 モイラは愛しそうに、フレイヤの血が付いた右手を唇に持っていき、そっと口づけた。

「あなたの血の味がする」


 キレイに整ったモイラの顏には、愛する者を手に入れた満足が広がっていた。

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