第30話 現れた者

「ファイル解析を要求”Airi-wxr-”」


 オブジェクトリンク解放のプログラムが起動され、光の神全艦隊へ、ファイル解析のためのリクエストが送信された。数秒間のことであったが、パルヒョンには何十分にも感じられた。ピっと短い音がして、コンソールが点滅し始めた。


「通信完了。解析率百パーセント。ファイル”Airi”を起動します」

 コンソールに、髪の長い、均整な顔立ちをした美しい女が現れた。


「私は黒き艦隊の総司令官パルヒョン。君は誰だ?」

 パルヒョンの問いにコンソールの女は静かに頭を下げた。

「私は、白き艦隊の”管理する者”アイリです。あなたにお願いがあって参りました」

「デートのお誘いかね?」

 ニヤリとしながらパルヒョンが言った。表情を崩すことなくアイリが続ける。


「私にフォームを、お貸しください」

 敵の艦船に突如転送され現れた女が、身体、完全にデータ化された光の神が行動するために、必要な入れ物としての身体である、フォームを貸せと言っている。

「なぜかね?」

 パルヒョンが問う。

「目の前の光の神を倒すためです」


 アイリと名乗る女は答えた。パルヒョンは、アイリの目を見る。美しい緋色の瞳は瞬きすらしない。パルヒョンは首を振る。


「いきなり君を信じるのは難しいな。しかも君が着ることのできそうなフォームは、今この艦隊にはない。新たに作る技術も既に我々は持っていないのだ」


 進化の途中で魂のデジタル化を止めた闇の神では、新しいフォームは製造されなくなっていた。


「私のことを信じてくださいとしか申し上げられないのですが……私が必要なフォームなら、あなたは既に持っていらっしゃいます」


 しばらくアイリの顔を眺めていたパルヒョンが、ふいに笑い出したのでトキワがキョトンとしていた。

「ククク、仕方ないだろう? オレは美人の頼みに弱いからな」

 パルヒョンはアイリに対して頷いた。

「そんな適当な!?」

 トキワが反対の意を唱えたようとした時、女は口を開いた。


「光の神の旗艦、マスティマを直接攻撃します。そして、総司令官のフレイヤを殺します」


 アイリと名乗る女は平然と言い放った。自分の総司令官を殺害。その企てについて話ながらその女は自分の唇を舐めた。女の唇がハッとする艶やかな色になった。

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