第29話 光の神のデータ
光の神の旗艦マスティマから送られてきたデータの解析は難航していた。
ソフト開発部のトキワが振り向きながら言った。
「総司令、これはやっかいですね。やはり光の神のフォーマットは我々には解析できない部分が多すぎます」
黒き艦隊の総司令官のパルヒョンはコンソールを覗き込みながら聞いた。
「このファイルはどれくらいリカバリーできそうだ?」
トキワが両手を組みながら首をかしげる。
「うーん、良くて五パーセントくらいでしょうか。なにせ、データ量が膨大で」
パルヒョンは額に手をあてて、困った表情をした。
「それだと、このファイルは、再起動できないだろうな」
「ええ。ちょっと無理でしょうね」
トキワが頷き、お手上げのポーズをする。パルヒョンは少し考えてから言った。
「オブジェクトリンクでファイルを起動してみるか」
トキワが驚く。
「危険です! 本艦アガレスのシステムが破壊される可能性があります」
パルヒョンはニヤリと笑って
「これを失敗したら、二人は銀河中のネットに晒されそうだな。通信の範囲を”光の神”の艦隊の周辺で限定するんだ。やってくれ」
「どうなっても私は知りませんよ!?」
トキワが通信ゲートウェイシステムへ”オブジェクトリンク解放”の指示を与える。
「ネットワークシステム、ポート8888の解除を指示トランスファープロトコルをルーテング指定。警告。只今より半径十光年以内でオブジェクトリンクを展開する」
オブジェクトリンクはイメージで、他のプログラムとリンクする機能だ。
インターフェースが違うプログラム同士が、人間のように会話をしてお互いの要求を満たす。リンク指定された範囲の全てのプログラムが、お互いに相談するかのようにして答えを導き出す。
光の神から転送されてきたファイルの解析に失敗したパルヒョンは、解析できなかった部分を、光の神のネットワークに求めるよう、トキワに指示を出したのである。トキワが危険だと言ったのは、オブジェクトリンクには大きな問題があるからだった。
通信システムレイア121、通称“以心伝心プロトコル”は、一瞬で数万光年にデータを通信してしまう。しかも通信相手を限定することが難しい。例えれば、街の真ん中で大きな声で秘密を叫んでいるような状態になる。
もしも、送られてきた光の神のプログラムが、敵対的悪意を含むものであれば、一瞬でこの船、旗艦アガレスが操作不能にされてしまう可能性もあるのだ。
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