第24話 ライバル

 フレイヤは中央管理システムの、巨大な電脳都市セントラルの上級仕官のティールームに居た。


 白いティーカップから、お茶を飲みながら、書物を読んでいた。

 静かにそこに存在しているだけ、といったフレイヤの周りの空気が大きく波打った。強烈なエーテル、遠くからでもシヴァが歩いてくるのがわかった。


「フレイヤ、明日、出発すると聞いた」

 ぶっきらぼうなシヴァの問いに視線を上げたフレイア。

「ああ、そうらしいな」

 とくに表情をかえることもなく静かなまま、フレイヤはシヴァの問いに頷いた。

「もう少し時間があるかと思っていたのに」

「時間? 何かしたいことでもあったのか、この私と?」

「無いわ。おまえとしたいことなど、あるわけがない」


 だがシヴァは少し淋しそうな顔をした。ふぅっとため息をつくと、フレイヤはシヴァへと視線を向けた。

「やっと士官学校を卒業して実戦に出られる、それにシヴァおまえは主席なんだぞ」

 今まで一言も学校への感想を述べなかったフレイア、実は面倒だったようだ。

 いつもならハッキリと物申す、シヴァが言葉に迷ってた、らしくない姿に、こちらも多くを語らないフレイアが、珍しく言葉を重ねる。


「それともなんだ? 十二翼の“判断する者”の中でも最高の計算力を持つ光速のシヴァが、私がいないと淋しいとでも言うのか? おまえのことだ、清々するだとかなんとか、言うんじゃないのか?」


 フレイヤの言葉に、シヴァがムッとした顔をする。

「ああ、そうだ。おまえのような馬鹿と離れられて嬉しいよ」

「そうか、それならいい。私も心配が無くなる」

 そう言うと、フレイヤは再び書物に目を戻した、シヴァはまだ動かずにフレイアに答えに困る質問をした。


「フレイヤ、おまえはひとりが好きなのか」

「何を言っている――私はずっとひとりだった。そしてこれからも一人だろう。孤独など感じない」

「そうか。それが光の艦隊の司令官のあるべき姿だな」

「ああ、そうだ。シヴァ……おまえは暇なのか? ここで、明日から居なくなる私と話していても得るものは少ないと思うが……」

「そうだな。ただ私は、おまえとこうして、することも無く無駄に過ごす、こういう時間が……なんと言えばいいのか……」


 言葉に詰まり、ちょっと困った顔した様子は、普段のシヴァからは想像もできない姿だった。それを見るフレイヤも、珍しいことに、少し楽しそうな顔をしていた。

「私は好きな時間だよ、シヴァ。おまえと過ごす、こういう時間は」

「ば、ばか、デカイ声でそんなことを言うな!」


「そうか? まあ、しばらく、おまえの怒る声も聞けないのは淋しいな」

「馬鹿者! 恥ずかしいから、そういうことを言うのは止めろ!」

 少し赤くなったシヴァを見て、ふふっと、フレイヤは笑った。



 白き艦隊による、他の生物の抹殺が進み、新たに他生物と遭遇することが無くなって千年。

 セントラルは他生物の抹殺を九十パーセント以上完了したと判断したが、さらに百パーセントの他生物の抹殺を現実のものとする為に、白き艦隊は、十二に再編成された。

 後に、十二翼の光の艦隊、無敵の“光の戦女神”と呼ばれる者達が集められた。そして、十二翼の光の艦隊は、宇宙の果てを目指して航海を始める。


 セントラルから遠く離れると交信が行えなくなるため、”判断“、”管理“、”出力”の3フォームが作成され、各々の艦隊に実装された。


 以後、十二の白き艦隊は、セントラルの管理下からは外れ、自己判断による戦いを始める。最後に残る他生物の抹殺を目指して。


 そして今、フレイヤの艦隊は、かつてのパートナーであった男、黒き艦隊の拠点へ向かい、抹殺を開始した。

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