第17話 十二次元の世界でも

 次の日の夜、私はいつものコーヒーショップで愛莉と話をしていた。


 予想外に楽しかった海の余韻を引きずって、ちょっと興奮気味の私を見ていた愛莉が、またサラサラと絵を描き始めた。


 愛莉の絵の才能にはいつも感心してしまう。愛莉は、とんでもないことを言い出すこともあるけれど、私が淋しいときには、淋しいと感じる前に側に来ていてくれる。


 当たり前に過ごしていたから何とも思っていなかったけれど、考えてみると、余程気が合うのか、不思議な縁があるのか、とにかく特別な何かがあるのかもしれない、そんな風に思った。


「どうしたの? 悠里絵、何か気になることでも?」

 いつの間にか絵を描き終わった愛莉に声をかけられた。心を見抜かれたようで、少しドキドキする。


「ほい、出来たよ。悠里絵の絵」

 渡された絵は私の姿を描いたもので、実物よりも数段可愛く描かれていた。

「愛莉、この絵の私は・・・瞳が銀色だよ?」

 窓の外を見たまま、愛莉が答えた。

「そう……ちょうど色が切れたんだ。シルバーグレイの瞳、カッコイイでしょう? 悠里絵にピッタリだと思うけどな」


 愛莉の言葉に不思議な感覚に捕らわれる。

 私の似顔絵は、どこかで見たことがあるような気がしてきた。

「へんだね、自分の顔なのに……瞳の色だけで私じゃないような気がする」


 私のつぶやきに愛莉は、ほおづえをついて、私を見つめた。

「……愛することが出来る今でも、それは伝えられない。悲しいな」

 え? 私は愛莉の言葉の意味を理解出来ないでいた。

「愛莉……愛しているって、好きな人でもできたの?」

 ため息をつきながら愛莉は答えた。

「十二次元の世界でも、この手の話には疎かったけど、ここ三次元でも同様とは」

 十二次元? いきなり話が大きくなった。

 愛莉は本を読むことが嫌いで、脳が燃焼するとまで言っていたのに……でも、難しい話をする愛莉に私は違和感が湧かなかった。


 そして……同性なのに……私に向けられた愛莉の目線に……ドキドキしていた。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る